リュージュ(龍樹)の伝言

第53回:プライマリ・ケア交換留学事始

2016/06/06

 早いもので、あれから4年目を迎える。あの時は「青葉まつり」で賑わう仙台だったから5月だ。英国家庭医学会(RCGP)のジュニア国際委員会(JIC)と日本プライマリ・ケア連合学会(JPCA)で私が委員長を務める国際キャリア支援委員会との間でパイロットプログラムとして始められた「日英プライマリ・ケア交換留学プログラム」の第一陣として、当時JIC代表だったRobin Ramsay先生ら英国の若手家庭医5名が来日したのだ。JPCAが認定する家庭医療後期研修プログラムを訪問し、年次学術大会へ参加して各々がポスターを発表した。それに応えて、2013年10月にJPCAから3名が渡英したことについては、この『リュージュの伝言』の第32回に書いた。

 

 JPCAの年次学術大会開催地で言えば、仙台、岡山、つくば、そして今週末開催される浅草大会へと物語は続き、日英両国の参加者たちと彼らを受け入れた人たちの間に、静かではあるが確実に多くの感動が広がっている。今年も英国から5名が参加する。4期生だ。そして嬉しいことに、昨年はMERSの発生で来日のキャンセルを余儀なくされた韓国家庭医学会(KAFM)との「日韓プライマリ・ケア交換留学プログラム」が今年は実施されることになり、韓国の若手家庭医3名が初参加する。学術大会参加以外に、日本の家庭医療後期研修プログラムの訪問もスケジュールに含まれているので、8名の交換留学生のほとんどは、もう今週始めあたりから来日して各地のプラリマリ・ケア現場の見学を開始しているはずだ。

 

 私たちの研修プログラムにも英国と韓国から1人ずつの交換留学生(OliverとHyeyeong)がやってきた。当講座の家庭医療後期研修プログラムは広い県内に6カ所の診療・教育の拠点があるので、Oliverは只見→喜多方→郡山→福島、Hyeyeongはいわき→郡山→福島→伊達の順に、ダイナミックな自然を楽しみながら移動して見学を続けてもらう計画だ。その地域の診療・教育の拠点でプライマリ・ケアを実習している福島医大の5年生、6年生を対象として、TV会議システムを利用した振り返りを毎週月曜日夕方に私が行っているので、今週はOliverとHyeyeongにも参加してもらった。学生からは英国と韓国の医療や医学教育についての質問が出たり、交換留学生からも学生へのアドバイスが聞かれたりして、いつにも増して賑やかな「国際振り返り」となった。交換留学のメリットとして「旅をすることが重要。旅の途中で、対象に心を開くと、誰からもどんなことからも学べるんだ」というOliverの発言には、多くの学生が共感したのではないだろうか。

 

 交換留学生8名全員は、今週金曜日には浅草入りすることになっている。そしてその夜は、国際キャリア支援委員会と過去このプログラムで英国や韓国を訪問したJPCA若手メンバーたちが同窓会のように集まって夕食会を催し、彼ら8名を歓迎することになっている。さらに週末の学術大会に参加しての当委員会企画のシンポジウムやポスターセッションでの発表で、英国、韓国、日本の若手家庭医を中心にプライマリ・ケアの国際交流が活発になっていくことを期待したい。

 

 なお、この「プライマリ・ケア交換留学プログラム」は英国と韓国の家庭医にはとても人気があるようで、応募者も多いと聞く。確かに今回参加する8名の履歴書を見れば、優秀な専攻医だけでなく、プライマリ・ケア研究をするアカデミック家庭医、国際交流のリーダー、医療政策研究の研修を並行して進める人など、かなりレベルの高い参加者になっていて、これから彼らに会っていろいろと話を聴くのが楽しみである。

 

 一方で、若干残念なのは、JPCAから海外へ向かう参加者と来日家庭医を受け入れる後期研修プログラムを毎年公募しているが、その両方とも応募があまり積極的ではないことだ。日本で留学を希望する大学生などが減少しているという背景も影響しているのかもしれないが、今後十分に振興策を考えていく必要があるだろう。

 

 最後に、この「プライマリ・ケア交換留学プログラム」について現在までに発表された論文を挙げておく:

・Ramsay R, Geeranavar S, Baines M. Partnering with Japan: the power of international exchange. InnovAit 2014; doi:10.1177/1755738014523736.

・高栁宏史, 増山由紀子, 吉田伸, 澤憲明. 日英プライマリ・ケア交換留学プログラムパイロット事業ー英国短期訪問プロジェクト参加報告. 日本プライマリ・ケア連合学会誌 37(2):141-143, 2014.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/37/2/37_141/_pdf

・Kassai R. Primary care in Japan: The long and winding road. Br J Gen Pract 2015 Mar; 65(632):143. doi: 10.3399/bjgp15X684109.

・氏川智皓, 加藤大祐, 栗本美緒, 新道悠, 原田直樹, 澤憲明. 第2回日英プライマリ・ケア交換留学プログラムー英国短期訪問プロジェクト参加報告ー. 日本プライマリ・ケア連合学会誌 38(4): 401-403, 2015.

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/38/4/38_401/_pdf



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