リュージュ(龍樹)の伝言

第27回:涙の湖に

2013/07/21

 昨日(土曜日)は、福島県に住み、福島県で働くことの責任と幸せを深く感じることができた日だった。

 

 郡山市にある公益財団法人 星総合病院の看護師・保健師養成学校であるポラリス保健看護学院の新校舎完成、ならびに新築移転となった星総合病院のグランドオープン記念式典に招待されたのだ。お父様である先代理事長の誕生日に合わせてこのイベントを主催した星北斗理事長のご挨拶がとにかく素晴らしかった。

 

 厚生省や日本医師会での経歴もある彼が、ある時期に故郷郡山で父親とともに良い医療を創ることを志す。次第に自分の持ち味を出して法人の舵取りをしていたさなかに東日本大震災が起こった。病院の建物は使い物にならなくなった。それでも、地域の復興を促進したいと、2週間後に、かねてから計画していた新病院着工を敢行する。人財を養成することにこだわり、ポラリス保健看護学院も新築する。「荒海孤舟北極星」(看護の対象を荒海に漂う小舟にたとえ、そのような人たちにとっての、ゆるがぬ道しるべとなる北極星・ポラリスPolarisのような看護者たれ、という学生への期待を示している)の精神をよくぞここまで形にしたと脱帽させられる建物だった。

 

 何と、学院の講堂はコンサートホールとしても使えるように素晴らしい音響にしてある。そして嬉しいことに、昨日はそこでコンサートも聴かせてもらった。これが、忘れ得ぬものになった。

 

 郡山市には原発事故でふるさとを追われた富岡町の人たちも多数仮設住宅などに暮らしている。その富岡町の文化交流センター(愛称:学びの森)には、ドイツのスタインウェイ社製の D-274という名ピアノがあった。このピアノも人々と同様、非業の運命をだどっていったが、ある奇遇からこの講堂(メグレズホール)におかれることになったという。長らく弾かれることがなかったピアノを、かつて富岡高校で音楽講師をしていてアジア国際音楽コンクールでトップに輝いたこともある、富岡町ゆかりのピアニスト四家昌博さんが、鎮魂の想いで演奏した。さらに、樺太で生まれ終戦で富岡町へ引き上げて、80歳過ぎてから原発事故で再び故郷を追われた佐藤紫華子さんの詩集『原発難民の詩』から三編の詩が朗読された。

 

 メグレズホールはたくさんの悲しい思い出が走馬灯のように巡る人たちの癒しの場と化した。何人かの人は、中空を見つめ涙をこらえていた。私はこらえるすべもなく涙が出るに任せていた。確かに、福島の人たちは大災害以来涙もろくなった。でも、その分強くなったと思いたい。悲しくも美しい弾き語りを聴いているようにこころにしみいった。

 

 演奏されたピアノの曲は、ショパンのノクターン第2番 変ホ長調とノクターン第20番 嬰ハ短調『遺作』、そしてリストのピアノ曲『愛の夢』だった。特にショパンを聴くと私はどうしても映画『戦場のピアニスト』(ロマン・ポランスキー監督、2002年、フランス・ドイツ・ポーランド・イギリス合作)のシーンが脳裏をよぎる。ナチスに蹂躙されたワルシャワの風景が、津波によって破壊された福島県浜通りの風景と重なる。鎮魂の調べが続く。朗読された詩が何であったかは調べないとすぐにはわからないが、ひとつ佐藤紫華子さんの『ふるさと』という詩を紹介したい。

 

      呼んでも 叫んでも

      届かない

      泣いても もがいても

      戻れない

      ふるさとは

      遠く 遠のいて

      近いけど 遠いふるさと

      あのふるさとは

      美しい海辺

      心の底の

      涙の湖に ある

 

 ふるさとを追われる悲劇に福島の人たちは何度耐えただろう。おりしもNHK大河ドラマ『八重の桜』では、今日(日曜日)鶴ヶ城開城を迎え、悲劇は頂点に達する。



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