リュージュ(龍樹)の伝言

第28回:医療大転換

2013/08/01

 いつもそうだと言えばそれまでだが、今週も盛りだくさんのスケジュールで忙しい一週間が始動した。週前半ですでに東京−福島を1往復半したし、意欲ある横浜の医学生Mさんの嬉しい訪問があり、私の外来診療を見学してもらった。月曜の夜は東京でMinds(医療情報サービス)の運営委員会に出てから、BMJ (British Medical Journal) EditorのAさんが来日したので、家内と夕食に招待して日本のプライマリ・ケアや研究について意見交換した。火曜の午前中に六本木にある政策研究大学院大学で医療政策特別研修として家庭医療の講義をして、午後には福島県南会津郡只見町の緑の中を走っていた。

 

 稲が美しく育ってきた。だが、このところのゲリラ豪雨で川は濁り水位が上がっている。道路が一部土砂で覆われている。通行止めの箇所もある。JR只見線も運休になった。2年前、東日本大震災の年に只見川流域を襲った夏の大水害の記憶がよみがえる。これ以上の被害がでないことを祈る。

 

 こんな中で、今週はじめにはちょっと嬉しいことがあった。筑摩書房の「ちくま新書」として書いていた著書がいよいよ出来上がり、月曜に見本を受け取ったのである。来週には書店に出るそうだ。そんなに本を書いているわけではないので、出来上がった著書を手にして眺めるのは、結構、嬉しい。今年5月に『マクウィニー家庭医療学(上)』を出版した時もそうだった。

 

 新書のタイトルは『医療大転換 — 日本のプライマリ・ケア革命』

 

 あとがきにあるように、世界で「家庭医」と呼ばれる専門医がどのような役割を持ち、なぜ日本の医療においてプライマリ・ケアの整備が必要なのかについて多くの日本の人たちに知ってほしい — そう願ってこの本を書いた。

 

 内容については読んでいただくのがベストなので、ここではこれ以上触れないでおくが、それ以外のトリビアを少し披露しよう。まず、新書の帯と第2章の扉に出てくる写真には、もうこの『伝言』でも何回か登場しているオランダの家庭医マークが写っている。後ろ姿の患者役の女性にも心当たりがある人がいるかもしれない。2010年に海外家庭医療先進地視察でオランダのナイメーヘンへ行って、マークの診察室で私が撮影したものだ。当時も明るくきれいな家庭医診療所だったが、今年7月はじめにプラハからの帰りに訪問した時は、さらに広々とした診療所が近くに新築されていた。より多職種連携しやすく構造が進化している。

 

 自分が写っている写真が私の新書に使われることを快諾してくれたマークは、実はかなりいい写真を撮る才能がある。以前福島へ来たときに彼が撮った写真を眺めて以来、それが私の評価だ。そこで、先月再会したときに、今回新書に掲載される私の顔写真の撮影をマークに頼んでみた。

 

 ナイメーヘンから1時間ぐらい車で走り、Hoge Veluwe国立公園の入り口でレンタル自転車を調達し、公園の森の中を10キロぐらいサイクリングするとKröller-Müller美術館に到着する。ここは個人のコレクションとしては世界最多のゴッホの作品があることで有名だ。ゴッホの『ジャガイモを食べる人たち』が好きでよく観に来るんだ、とマークは言った。懐かしい祖父との暮らしの記憶が甦るらしい。

 

 日本で開催されるゴッホ展ではありえない、まったく混雑していない広々とした空間で「山のようにある」ゴッホの作品をのんびり鑑賞した後で、持参したネクタイとジャケットを身につけて、美術館の庭(と言うより森)に出て、その自然の中でマークが撮影したのがこの写真だ。マークの巧みな導入によって、私の脳には「医療大転換」経過中にはたぶん出ない(笑)と思われるα波が出ていたはずで、穏やかな遠い眼差しは美術館の中にあるゴッホへ向いているのだ。ダンク ユーウェル(ありがとう)、マーク!



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