リュージュ(龍樹)の伝言

第34回:俳句コンテスト

2013/12/01

 日本語での俳句もほとんど作ったことがないのに、英語の俳句を作る羽目になった。しかも昨日が締め切りだった。

 

 私が国際編集アドバイザーをしている英国医学雑誌 BMJ(British Medical Journal)は、毎年クリスマス号にその歳を締めくくるちょっとした企画をしているが、今年の企画はなんと(私がアドバイスした訳ではないが)俳句コンテストだ(http://www.bmj.com/content/347/bmj.f6631)。まず今年 BMJ に掲載された研究論文6編が「課題」として選ばれ、それぞれの研究で得られた知見を表す俳句を募集してコンテストをして、優秀作が BMJ のクリスマス号に発表されるというのである。

 

 BMJ で同僚のインドの編集者から「リュウキもエントリーしてね」と言われ、いちおう俳句の伝統を持つ日本人としては引き下がるわけにはいかず、英語の音節(syllables)を数えるという慣れない作業をしながらの作句になった。

 

 どんな論文が「課題」になっているかというと…

 

 卵を食べる量と冠動脈疾患および脳卒中発症についてのコホート研究のメタアナリシス。毎日1個までの卵を食べても冠動脈疾患や脳卒中のリスクは上がらなかった。糖尿病がある場合のサブグループ分析では、卵の摂取が多いと冠動脈疾患が増加し、出血性脳卒中が減少した(中国から。BMJ 2013;346:e8539)。

 

 仕事で自動車を長時間運転する人たちを対象に事故を起こした人と起こさない人とでカフェイン飲料を飲んだか飲まないかを検討したケース・コントロール研究。カフェイン飲料を飲むと事故がかなり少なかった(オッズ比0.37)。もっとも、疲れたら休むマネジメントの方が大事(オーストラリアから。BMJ 2013;346:f1140)。

 

 運動不足、野菜果物摂取不足、喫煙、アルコール摂取という不健康行動を段階分けして、どのように障害に結びつくかを検討した地域住民対象のコホート研究。個々の不健康行動が独立して障害につながることと、不健康行動の数が増えると障害の危険が増加することが初めて明らかになった(フランスから。BMJ 2013;347:f4240)。

 

 キューバの経済状況と国民の体重、糖尿病、心血管イベントでの死亡との関係を1980年から2010年まで4回の大規模横断的研究を繰り返して明らかにした。経済危機の時代には国民の体重が少なく、糖尿病も心血管死も少なく、経済の復興に伴って、肥満が増え、それに次いで糖尿病も増え、心血管死にも影響が見られた(キューバから。BMJ 2013;346:f1515)。

 

 熱発した小児が重症細菌性感染症になっていないかについての英国 NICE の診療ガイドラインの妥当性について検討した後ろ向きコホート研究。ガイドラインのアプローチでは特に尿路感染症で感度が十分でなく、検尿を加えることで感度が改善することが示された(オーストラリアから。BMJ 2013;346:f866)。

 

 製薬会社などからのプレゼントを制限するポリシーを持つ医学校出身者が、そうでない医学校出身者と比較して、医師としてどのような処方行動をとるかを差分の差分(difference-in-difference)アプローチで検討した研究。学生時代このポリシーで教育を受けていると、医師になってから新発売の薬剤の処方にある程度の抑制がかかることが示された(米国から。BMJ 2013;346:f264)。

 

 さあ、それぞれの所見がどんな俳句になるのだろう。審査中という大義名分があるので、私の俳句を今ここで披露することは差し控えるが(本当は恥ずかしいのだ)、みなさんも考えてほしい。

 

 ただ、この俳句コンテストに参加して発見したことは、これが短時間にポイントをついて臨床研究論文を読む訓練にもなるのではないかということだ。しかも、上記でお分かりのように、BMJ に掲載される論文の多くがプライマリ・ケア領域にあり、とても興味深い。

 

 師走来て えげれす俳句 ビー・エム・ジェー



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