リュージュ(龍樹)の伝言

第37回:銀の龍の背に乗って

2014/04/19

 4月になって、全国各地で新しい初期・後期研修医たちが研修を始めているに違いない。不思議なことに、私にはこの時期になるといつも聞こえて来る(ように思える)歌がある。中島みゆきさんの『銀の龍の背に乗って』だ。2003年に放映されたTVドラマ『Dr.コトー診療所』の主題歌にもなった歌なので、若手研修医でも中高生の時に聴いて知っているだろう。

 

    あの蒼ざめた海の彼方で   今まさに誰かが傷んでいる

    まだ飛べない雛たちみたいに 僕はこの非力を嘆いている

    急げ悲しみ 翼に変われ   急げ傷跡 羅針盤になれ

    まだ飛べない雛たちみたいに 僕はこの非力を嘆いている

 

    夢が迎えに来てくれるまで  震えて待ってるだけだった昨日

    明日僕は龍の足元へ崖を登り 呼ぶよ「さあ、行こうぜ」

 

    銀の龍の背に乗って 届けに行こう 命の砂漠へ

    銀の龍の背に乗って 運んで行こう 雨雲の渦を

 

 なぜこの歌が思い出されるのかという私のコンテクストは複雑だが、敢えてシンプルに言えば、この歌が研修医の気持ちを描いていると思えて仕方ないからだ。今の研修医のみんなにも納得してもらえるだろうか。

 

 24年前にバンクーバーで家庭医療の研修を始めた頃の自分の心情にもかぶる。家庭医になりたい動機と情熱は十分にあったが、自分にそれだけの能力があるのか、その専門性が日本の社会に認められるのか、まだまったくわからなかった。何の保証もなかった時代にいて、何度「この非力を嘆いて」いたことか。

 

    失うものさえ失ってなお   人はまだ誰かの指にすがる

    柔らかな皮膚しかない理由は 人が人の傷みを聴くためだ

    急げ悲しみ 翼に変われ   急げ傷跡 羅針盤になれ

    まだ飛べない雛たちみたいに 僕はこの非力を嘆いている

 

    わたボコリみたいな翼でも  木の芽みたいな頼りない爪でも

    明日僕は龍の足元へ崖を登り 呼ぶよ「さあ、行こうぜ」

 

 幸い恩師や多くの人たちに支えられて、今度は家庭医をめざす研修医たちを自分が育てる立場になった。彼らの多くは、この歌で描かれているような情熱と勇気を内に秘めたナイーブな若者だ。だが、その彼らの気持ちに応えて研修医を支える役割の私自身はけっして力強い「銀の龍」にはなれていなかった。家庭医療後進国日本にいるが故に、彼らに困難な状況や不十分な環境での研修を強いたこともあったに違いない。

 

 それでも、彼らが成長して「さあ、行こうぜ」と飛び立つ姿を北海道と福島でかれこれ10年以上見て来た。時代は巡り、今、彼らは学生と研修医を教えている。彼らが地域で患者さんとその家族、そして一緒に働く多職種の同僚に信頼されている姿を見ることが私は大好きだ。

 新年度のスタートにあたり、すべての学生・研修医と指導医の前途に幸多かれと祈ろう。

 

    銀の龍の背に乗って 届けに行こう 命の砂漠へ

    銀の龍の背に乗って 運んで行こう 雨雲の渦を

 

~「銀の龍の背に乗って」(2003)作詞:中島みゆき~



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