リュージュ(龍樹)の伝言

第38回:万葉人の想い

2014/04/27

 ここ1週間ほど、福島はさわやかな春の晴天が続いている。ようやく桜が美しく咲き誇り、残雪の山々とのコントラストが素敵だ。朝ランニングするのにも、意を決して出て行かなければならないほどの低温や日の短さではなくなり、スタンダード・ジャズの名曲『朝日のようにさわやかに』のような気分で、快適に汗をかける季節になった。

 

 福島医大は福島市の中心部から若干離れた光が丘という高台にあり、その背景には吾妻連峰(西吾妻山2,035メートルが最高峰)そして安達太良連峰(箕輪山1,728メートルが最高峰)が視界の水平の広がりで約120度に及ぶ息をのむほどのパノラマを構成する。

 

 4月最初の週末に、今年度最初のFamily Medicine Resident Forum(当講座の後期研修医向けの月例勉強会。FaMReF「ファムレフ」と略される)を安達太良連峰の裾野にある岳(だけ)温泉で開催した。2011年の東日本大震災の影響で毎年加わる新メンバーの数が少なくなっていたが、今春は嬉しいことにまた多くの仲間がやって来てくれて、今回のFaMReFは、彼らのためのオリエンテーションを兼ねて泊まりがけで開催したのだ。

 

 福島県の良いところの1つは、県内に趣のある温泉地・観光地が多数あることで、このような宿泊フォーラムを開催する候補地に事欠かない。しかも現在県内5カ所ある当講座の家庭医療の診療・教育拠点は地理的にほぼ均等に広がっているため、年間を通して各地で開催すれば県内どこで開催しても、アクセスの遠近での不公平感は少ない。今回も「フラガール」のいわきから「ラーメン」の喜多方まで2転3転して、結局、当講座後期研修医2名の出身地でもある岳温泉に決まった。

 

 岳温泉から間近に眺めることが出来る安達太良山は日本百名山の1つだが、実は日本の歴史のなかでかなり昔から知られている。日本最古の歌集である万葉集(7世紀後半〜8世紀後半)に収載されている東北地方の歌は宮城県が1首、福島県が10首だそうで、そのうち3首が安達太良山を詠んでいる。

 

  安達太良(あだたら)の嶺(ね)に伏す鹿猪(しし)のありつつも                         我は至らむ寝処(ねど)な去りそね

 

  陸奥(みちのく)の安達太良(あたたら)真弓(まゆみ)弦(つる)はけて                     引かば人の吾(わ)を言(こと)なさむ

 

  陸奥(みちのく)の安達太良(あたたら)真弓(まゆみ)はじおきて                        反(せ)らしめ置(き)なば弦著(つらは)かめかも

 

 これらの歌の意味や歌碑のある場所については、あだたら高原リゾートのホームページ(http://www.adatara-resort.com/green/manyo.stm )に詳しいが、西日本が文化の中心であった万葉・記紀の時代に地の果てと見なされていた陸奥(みちのく)で、こんなにおおらかな恋の歌が詠まれていたことは驚きである。

 

 このような古(いにしえ)から知られた地で、しかも重要な建築や芸術とかの人工的な何かという文化ではなく(もちろんそれも素晴らしいが)、懐の深い大地という自然遺産に囲まれていると、私たちも万葉人のようにおおらかになってくるから不思議だ。FaMReFでのプレゼンテーションもディスカッションものびのびしていた。新しいメンバーも、寛ぎなら私たちの仲間になっていく良いスタートがきれたことだろう。

 

 このFaMReFは当講座のメンバー以外にも公開しているオープンなフォーラムなので、全国からの興味を持つ人たちの参加を歓迎している。海外から参加者がやって来ることもある。家庭医療がどのようなもので、福島では実際にどのようにして家庭医・総合診療専門医を養成しているのかを知ってもらう良い機会になるだろう。ぜひホームページの案内を見て連絡して来てほしい。

 

(注:5月は岡山での日本プライマリ・ケア連合学会の年次学術大会およびマレーシアでのWONCAアジア太平洋地域学術総会参加のためFaMReFは休会になります。6月からの開催スケジュールについては、リニューアルされるホームページとともに近々アナウンスされます。しばしお待ち下さい。)



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