リュージュ(龍樹)の伝言

第39回:Michael Kiddインタビュー余録

2014/05/16

 今年の2月8日、あいにく関東地方としては異例の大雪で交通が大混乱して、「陸の孤島」と化した成田空港から「脱出」するのに12時間もかかりながら、WONCA(世界家庭医機構)会長のMichael Kidd教授が来日した。私の親しい友人でもあるマイケルは、オーストラリア、アデレードにあるフリンダース大学の医学・看護学・助産学を抱える健康科学部のExecutive Deanを務めている。

 

 今回の来日は、私が福島県地域医療支援センター(保健福祉部)の助成を受けて招聘したもので、せっかくの機会なので、福島県内での講演・セミナーだけでなく、日本プライマリ・ケア連合学会の若手医師のための家庭医療学冬期セミナーでの全体講演、および医療介護福祉政策研究フォーラム国際交流研究会での講演もお願いした。

 

 それに加えていくつかの雑誌からのインタビューもあったが、『週刊医学界新聞』では、私がマイケルにインタビューすることになり、今週そのインタビュー記事が掲載された( http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03075_01 )。紙面の都合でインタビューのすべてを掲載することができなかったので、編集者のご好意から許可をいただき(若干重複する部分もあるが)ここに紹介したい。

 

<中略>

葛西:WONCAに関わるようになったいきさつを聞かせて下さい。

キッド:話は1989年にさかのぼります。私はモナシュ大学の家庭医療の研修医でした。当時の主任ニール・カーソン教授はとても洞察力が強く、視野の広いリーダーでした。若手医師の能力を伸ばすのがうまくて、若手が興味を持ち将来そのテーマで仕事ができそうかを判断して、そこでの仕事が発展するように支援してくれます。私も何に興味があるのかを聞かれました。当時私が興味を持っていたのはコンピューターでした。当時はまだようやくコンピューターが一般の人に使われ始めた頃で、そのほとんどはゲームに使われていました。私はコンピューターが保健医療の安全と質を良くするのに役に立つのではないかと思って興味があったのです。

 1989年はWONCAの世界学術大会がイスラエルのエルサレムがあった年で、カーソン先生もそこでコンピューターが医療にどう役に立つのかのプレゼンテーションをすることになっていました。ただ、カーソン先生自身あまりコンピューターが得意なわけではありませんでした。学会の2週前になって、だんだんカーソン先生もそわそわしてきました。そしてついに、私は彼から「これから2週間は何か予定があるか」と聞かれました。「別にありません」と答えると、「ではエルサレムへ私と一緒に行ってプレゼンテーションを手伝ってほしい」と頼まれました。それは面白そうだと思い、私にとって最初のWONCAに参加することになったのです。

 エルサレムのWONCAでは世界の家庭医療のリーダーに多数会う機会がありました。彼らから何に興味があるかを聞かれ、コンピューターと保健医療の安全と質に興味があることを伝えると、コンピューターと家庭医療についてのワーキング・パーティーを作ってWONCAの発展に関わってほしいと依頼されました。こうして私のWONCAの活動が始まり、やがて役員に選ばれていったのです。

 

<中略>

葛西:最後に読者へのメッセージをお願いします。

キッド:若い人たちには、自分がキャリアとして何を達成したいか明確に考えてほしいです。自分の何を使って何を変えることが出来るのかを考えてほしい。情熱をもって下さい。自分がどこに適しているのかを考えるために、医学のすべての分野を選択肢としてじっくりと見渡して考えて下さい。多くの若い人たちは理想主義的に考えがちです。でも世界はそういうあなたたちの情熱を必要としています。それが世界を変革するのです。志を同じくする人たちと一緒に働くことを学んで下さい。1人では大きなレベルでの変化を起こすことは難しいですが、多くの人たちと働くことで、国を変えることも、世界を変えることもできるのです。

 私も若い時は理想を追っていました。少し大人になって、自分が世間知らずの若者であり自分に出来ることなんて少ないことを思い知らされました。でも、またさらに時間が経つと、こうやって世界の50万人のWONCAの仲間と一緒に働くことで、世界をもっと健康な場所にすることができると感じています。

 この新聞の読者には年配の方々もいるでしょう。その人たちに伝えたいことは「遺産」です。自分がプロフェッショナルとしてのキャリアで次の世代に何を「遺産」として残せるのかを考えて下さい。これが私からのメッセージです。

 

 マイケルがWONCAに関わるようになったセレンディピティとも言えるエピソードが面白い。そのWONCAのアジア太平洋地域学術総会が、来週からマレーシアのKuchingで開催され、私も参加する。マイケルはじめ世界の家庭医たちとの再会、そして新しい出会いが楽しみだ。

 

注:WONCAの機関誌『WONCA News』2014年3月号に、今回のマイケルの日本訪問レポートが掲載されている( http://www.globalfamilydoctor.com/News/FromthePresidentJapan.aspx )。

 



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