リュージュ(龍樹)の伝言

第41回:津軽再訪

2014/06/29

 城下町を走るのが好きだ。

 先週日曜日の朝、まだ肌寒い弘前市街を駆けた。

 

 駅前のホテルからとりあえず弘前城へ行ってみた。城内は道が複雑に交差していて、気の向くままに走ることができるのが嬉しい。いつくかの門をくぐり、櫓を望み、濠にかかる橋を渡った。ところどころではっとするような美しい景色が待っていた。静かなたたずまいの蓮池と西濠に沿った桜並木が特に印象に残った。この季節、桜花は過ぎ蓮花はまだなのでどちらも見ることができないが、落ち着いた深緑に囲まれて走るのは爽快だ。

 

 お城を出てさらに走った。もう40分は走っただろうか。その時、弘前には長勝寺というお寺があることを思い出した。父が旧制弘前高等学校の卒業生であるため、子どもの頃に父から寮歌祭の話や、確かそのレコードも聴かせてもらったことがあり、不思議なことに「長勝寺 五百羅漢に ぬかづきし 十九の秋に」という歌の一節を(メロディーつきで!)思い出したのだ。これは正式な寮歌ではなくて、何かの記念のおりに歌われたもののようだが、かつての弘高生が青春を回顧する歌をなぜ少年だった私が覚えていたのかは不思議だ。

 

 幸い長勝寺への道順を示す案内図を発見したので、その方向へ走った。運が良かった。太平山長勝寺は曹洞宗の寺で、津軽家の菩提寺だ。その付近は30あまりの曹洞宗の寺院が直線上に並び禅林街を形成しており、その最奥に長勝寺が位置する。禅寺らしい広壮な趣だ。

 

 長勝寺の境内を箒で掃除している老婦人がいらした。私に気づくと掃除の手を休めて驚いたように私を見ていた。私には驚きの理由を察することができた。私は時々僧侶に間違えられる(理由はおわかりだろう)。早朝、僧侶が短パンで走っていると思って驚いたに違いない。私がスピードを緩めて微笑みながら会釈をすると、ちょっと安心したように向こうも微笑みと会釈を返してくれた。温かい気持ちになり、(まだ結構距離はあったが)弘前駅までも快調なランニングができた。

 

 弘前へ行っていたのは、前日に開催された青森県内にある日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療後期研修プログラムの合同レジデントデイの学習交流会へ招かれたためである。昨年の9月の東北ブロック支部学術集会(このブログの第31回『青森で見えてきた東北の底力』参照)に続き、青森の皆さんに大変お世話になった。この場を借りて再度お礼申し上げます。ありがとうございました。

 

 私は「ポートフォリオとは何か、どのように作るか・指導するか」というお話をさせてもらい、自分たちが作りつつあるポートフォリについて3人の後期研修医の人たちが発表するのを聴き、それについてディスカッションした。いずれも興味深い熱意のある発表だった。私の方からは、早い時期にポートフォリオのエントリー別にファイルとフォルダーを作って少しずつでも書き込んでいくこと、「なぜ」その事例を発表するのかを繰り返し問うこと、医療の主観的側面を重視すること、指導医とのやりとりを含めた学びの軌跡を記すこと、家族図を描き家族志向ケアをすすめること、などについてアドバイスし、津軽弁で「これわがんねばまいね(これがわからないとダメ)」とも言える家庭医にとって必須のアプローチ「患者中心の医療の方法」の最新版について紹介させてもらった。

 

 こうして短時間の弘前訪問だったが、若手の人たちも含めて熱心な青森県の人たちとの交流でこちらも元気をもらい、今後の連携プロジェクトを期待しつつ津軽平野を後にした。その日の夕方、長勝寺へ行ったことなどを電話で父に伝えると、弘前城は本丸石垣修理が今年秋から始まりこの先かなり長い間天守閣を見ることができなくなるそうで、今回お城の公園内をランニングできたのはとても幸運だったことを知った。



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