リュージュ(龍樹)の伝言

第57回:卒業写真

2017/03/21

 3月18日に福島県立医科大学の家庭医療学専門医コース(後期研修)の修了祝賀会を郡山市のホテルで開催した。地域・家庭医療学講座が設立されて11年を経て第8回となる今年の祝賀会では、聡子、喜弘、冬人、由李恵、一隆の5人の修了を祝った。それぞれに能力の高い個性的な専攻医が、家庭医としての専門研修を修了して新たなステージへと進む。幸い5人すべてが福島に残って、私たちと一緒に後輩の指導をする道を選んでくれた。感謝して、彼らの前途に幸多かれと願う。

 

 祝賀会に先立って行われた月例の専攻医向け勉強会であるFaMReF (Family Medicine Resident Forum)では、出産を控えている聡子は残念ながら参加が叶わなかったが、喜弘、冬人、由李恵、一隆の4人がそれぞれに3年間の専門研修を振り返るプレゼンテーションを披露した。家庭医療との衝撃的な出会いを語る者。7つ目のコアコンピテンシーとして「文化」を提唱する者。世界の多くの家庭医と価値観を共有した経験を振り返る者。そして、従来の日本の医学や教育にはないパラダイムシフトを経験できた者。改めて、3年間という時間が志の高い若者の人生を変えることを確認できて、とても嬉しかった。家庭医の指導医として一番幸せを実感できるひとときだ。

 

 私から彼らへのはなむけに、「家庭医療学の専門性と魅力を自信を持って後輩たちに伝えて欲しい」と頼んだ。そして、「君たちに続く次の世代が将来君たちを越えて発展しようとする時に、そのことを脅威と感じたり邪魔したりする人間にはならずに、そのことを真に喜び支援できる人間になって欲しい」とも加えた。日本では、プライマリ・ケアの専門医の(知識・技術は言うに及ばず)態度や価値観までを信念を持って次の世代に伝えることができる人がまだまだ少ない。保身のあまり後進を抑えつけようとする悪しき傾向もある。

 

 この『伝言』は昨年の7月23日に「新専門医制度1年延期(上・下)」を書いてからしばらく途絶えていた。その間、専門の論文を書くことに忙しかったとも言えるが、率直に言って若干の無力感があった。日本の医学・医療界ではどうしてこうも改革が進まないのだろう、という。今改めて、前回の『伝言』を読み返してみる。そこに書かれたことの少しでも何かが前に進んだろうか。修了生に私が伝えたことで考えると、制度設計を推進すべき中央にいる人たちは、自信を持って専門性と魅力を伝えるどころかプライマリ・ケアの専門医が何をする専門医なのかを理解していないのに、専門研修の内容について「これを1年間にしろ、あれを入れろ」などと言っている。何をスタンダードにして「コアコンピテンシーが偏っている」と言っているのかも示してもらいたいものだ。そして、次世代の医学・医療を担う医学生・研修医たちのキャリア支援どころか、今の自分たちの利権しか眼中にないような振る舞いである。

 

 折しも今夜、TVドラマ『リーダーズ』を観ていた。2014年に放送されたもののディレクターズカットである。第二次世界大戦後の日本で、国産車の質の改善という大きな目標のために生涯を賭けた群像の物語を観ながら、日本人とは何かを考えさせられた。ドラマにするための脚色があるとは言え、モデルは存在しており、自分が生まれ育った国にこのような人たちがいたことが素直に嬉しかった。

http://www.tbs.co.jp/LEADERS2014/ 

 

  翻って日本の医師はどうだろう。これほどの志と情熱を堅持して「日本に住むより多く人たちのより良い健康のために」そして「日本で家庭医・総合診療専門医を目指すより多くの医学生・研修医のより良い教育のために」日本でプライマリ・ケアを専門分野として確立することを目指してブレずに働いている人がどれだけいるだろう。特に中央で力を持つ人たちには、いかなるビジョンを持って、その力を何のために使っているのかと問いたい。医療は誰のものなのか。戦後に限っても他の専門分野では多くの真に素晴らしいイノベーションが日本から創出されている。早く、プライマリ・ケアの分野でも、日本から国内のみならず国際的にも貢献するイノベーションを生み出さなくてはならない。

 

 修了生への願いを書くために今回のタイトルを「卒業写真」にしたのに(この繋がりについては『伝言』の第1回「解題」をお読み下さい)、けっこう前回の『伝言』を引きずった内容になってしまった(苦笑)。やっとここで本題に戻るとしよう。当講座では、修了式の記念品として、専門研修の3年間に撮られた多数の写真を集めてメッセージとともに「卒業写真」として修了生へプレゼントしている。残念ながら「皮の表紙」ではないが、いずれも素敵な写真をちりばめた力作だ。続けて見ていると彼らの専門研修中に起こった様々なことが想い出されて目頭が熱くなる。修了おめでとう!

・・・

 

悲しいことがあると 開く皮の表紙

卒業写真のあの人は やさしい目をしてる

 

あの頃の生き方を あなたは忘れないで

あなたは私の 青春そのもの

 

人ごみに流されて 変わってゆく私を

あなたはときどき 遠くでしかって

あなたは私の 青春そのもの

〜「卒業写真」(1975年)作詞:荒井由実〜



リュージュ(龍樹)の伝言
カテゴリ
見学・実習希望
勉強会開催予定
フェイスブック公式ページ

pagetop