リュージュ(龍樹)の伝言

第60回：今だから学んでほしい、時代の要請に応える新しい専門性

2020/05/15

　当講座では、世界のスタンダードと日本の地域の実情を考慮して、家庭医療学とプライマリ・ヘルス・ケア（PHC）の専門医である総合診療専門医を育成しています。創立 15 年目を迎える今年は、新型コロナウイルス感染症（COVID-19）のパンデミックという、今まで誰も経験したことのない健康の脅威が世界を席巻しています。君たちの医学生・研修医としての生活と学びにも、大きな影響が生じていることでしょう。先が見えないと人は不安を感じやすいものです。希望を抱きにくくネガティブに考えがちです。

　でも、こうした時だからこそ、より学べることがあります。どのように病気が地域から生まれるかを見極めること、地域ごとに異なる諸条件を考慮して対策をとること、地域で一緒に働く仲間のチームワークを高めること、ケアの方法について安全性と効率性（費用対効果）を見直すこと、患者・家族の苦しみに寄り添い、優先順位を考えて地域住民全員の予防と健康維持・増進を図ること、そして、不確実性に耐えること。

　実は、これらはすべてPHCを支える専門性なんです。COVID-19の最先端の診断方法、重症例への高度先進医療、そして変革をもたらす基礎研究がいかに進んでも、PHCが地域にしっかりと整備されなければ、COVID-19を封じ込めることも、COVID-19と私たちが共存していくこともできません。

　当講座の診療・教育サイト（只見町、保原町、いわき市、郡山市、喜多方市、福島市、南相馬市）には、熱意あふれる総合診療専門指導医たちがいて、今まさにこれらの専門性を生かしながら仕事をしています。実際に君たちが地域の現場へ出向いて学ぶことができるまでには、まだ若干時間がかかるかも知れません。でも、それまでは、当講座が今までに培ってきた様々な遠隔教育のノウハウが活用できます。ぜひ積極的に参加し、理解し、そして、時代の要請に応える新しい専門医への道を選択して下さい。

＊これは、当講座の2020年度版 パンフレットに掲載されている「プログラムディレクターからのメッセージ」を転載したものです。