リュージュ(龍樹)の伝言

第62回:ハーフディ・バック の「新常態」

2020/06/16

 当講座の家庭医・総合診療医を目指す専門研修プログラムでは、専攻医がどのローテーションで研修していても週半日(ハーフディ)、家庭医の指導医がいる施設へ帰ってきて(カムバック)、家庭医療学を専門に学ぶ機会を設けている。私たちは「ハーフディ・バック」と呼んでいる。これは海外の多くの家庭医育成プログラムでも採用しているシステムで、日本では、1997年、北海道家庭医療学センターの研修プログラムを作るときに私が日本で最初に導入した。それは、「スキーを習いたければ、スキー場へ行ってスキーのインストラクターから学ぶ」とイアン・マクウィニー先生[第2、4、24、51回参照]が教えてくれたからで、専攻医がプライマリ・ヘルス・ケアの現場である地域で家庭医である指導医から直接学ぶ時間を専門研修の全期間にわたって保証するためである。他科のローテーションではその科の「疾患」のマネジメントは学べても、その「病気」をもつ人に家庭医がどう「患者中心の医療の方法」を適用するかは学べない。

 

 今年度のハーフディ・バックは、郡山市にある家庭医療クリニックを舞台に実施する事にした。現在3人の新専攻医は、それぞれ白河市、福島市、いわき市にある病院で他科ローテーション中である。当講座が福島県内の地域にもつ診療・教育の拠点は7カ所あるが、それらの中で、3人(とハーフディ・バック担当指導医の私)が集まりやすい地理的中心に近いのが郡山市だ。とは言え、それぞれの病院から片道約90km、60km、40km離れている。福島県は広いのだ。

 

 新年度が始まり、4月中は専攻医たちに実際に郡山のクリニックへ「ハーフディ・バック」してもらって、一緒に外来診療をしながら教育していたのだが、COVID-19蔓延の雲行きが怪しくなり、全国的に緊急事態宣言で移動の自粛が求められるにおよんで、実際に集まることはやめて、5月のゴールデンウィーク明けから、TV会議システムを利用して各地から専攻医にログインして参加してもらう「オンライン・ハーフディ・バック」を試行することにした。13:30から16:45まで、近況報告、事例検討、そしてロールプレイの3本立てのプログラムである。

 

 近況報告は、新専攻医としての新生活をCOVID-19という不確実な状況で開始した経験を共有するブリーフィングとして機能している。事例検討は、最初は病院での疾患を生物医学的にディスカッションしていた専攻医たちが、1ヶ月を経た今日では、徐々に「患者中心の医療の方法」を意識したものへ移行してきている。将来が楽しみだ。

 

 特に盛り上がるのはロールプレイだ。「ハーフディ・バック」の2日前までに、毎週テーマを変えて、私が作った3つのシナリオを専攻医たちへ送っておき、当日私を患者(または家族)役に専攻医が彼らで割り当てた家庭医役を10分間ずつ演じた後で、自分で、同僚から、そして指導医からフィードバックを受ける。テーマは、英国家庭医学会専門医(MRCGP)試験の臨床技能評価(CSA)で取り上げられるテーマから新専攻医3人が相談して優先して学びたい順位を決め、その上位から毎週1つずつ進めている。現在までに扱ったテーマは、「悪い知らせの知らせ方」「生活習慣の改善」「患者・家族が救急受診や入院を拒否する場合」「禁煙」「認知症」「電話診療」である。

 

 新専攻医たちの高いモチベーションもあるが、ロールプレイをする方もフィードバックする方も積極的である。TV会議システムだと、カメラとマイクによってロールプレイに没頭しやすい効果があるのかもしれない。新しい発見だ。時間も正確に進められ、録画しての振り返りも可能だ。専攻医たちからの評価も上々である。COVID-19による思わぬ拾い物で、実際の診療現場での教育とオンラインでのロールプレイの組み合わせが今後のハーフディバック 教育の「新常態」となっていくかもしれない。

 

 最後に、話は変わって、宮城の櫻井広子先生が「家庭医・総合診療医ブロガーマップ」を作ってくれて、この『リュージュ(龍樹)の伝言』も含めてくれた。どうもありがとう!

https://www.google.com/maps/d/viewer?fbclid=IwAR0UiQQNfBbrlOJx9JszzJ1Af3VWdVVqi0KFvhjmLtZNuDC7piQFoYoHn1o&mid=1lFi24abHDd1bIcVBL3cLhdilAeN8z24_&ll=37.54924077077389%2C135.95579495&z=6



リュージュ(龍樹)の伝言
カテゴリ
見学・実習希望
勉強会開催予定
フェイスブック公式ページ

pagetop