研究成果

分界条床核GABA作動性ニューロンの興奮はノンレム睡眠から覚醒への遷移を惹起する
櫻井武(公募班員)
筑波大学

Excitation of GABAergic neurons in the bed nucleus of the stria terminalis triggers immediate transition from non-rapid eye movement sleep to wakefulness in mice.
Kodani S, Soya S, Sakurai T
Journal of Neuroscience 26 July 2017, 37 (30) 7164-7176

論文(The Journal of Neuroscience)
論文(PubMed)

 

研究成果のポイント
恐怖や不安に関与する脳の領域分界条床核に存在するGABA作動性ニューロンを特異的に興奮させると、ノンレム睡眠をしていたマウスが直ちに覚醒することがわかりました。
同じニューロンを持続的に興奮させたところ、覚醒時間が延長され、ノンレム睡眠・レム睡眠両方が減少しました。
①は覚醒を司ることが知られているオレキシン系の作用を介していない一方で、②はオレキシンの作用によることが明らかになりました。
動物が外界の危険に応じて覚醒を誘導するメカニズムの一端が明らかになったことにより、情動による覚醒の制御機構が明らかになり、また、不安障害や不眠症の新たな治療薬開発へつながることが期待されます。

睡眠覚醒の状態は、生体内外のさまざまな要因や環境の影響を受けて変化します。これは、環境にあわせて覚醒状態を“シフト”するために重要な機能です。しかし、不安などの情動*1は覚醒に影響し、不眠症の原因となります。しかし、その背景にある神経科学的なメカニズムはこれまで明らかになっていませんでした。金沢大学医学類の小谷将太(学部学生)、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)櫻井武副機構長/教授らの研究グループは、マウスを用いた一連の実験で、恐怖や不安に関与する脳領域である分界条床核に存在するニューロンが、不安による覚醒を引き起こすことを明らかにしました。情動と覚醒をつなぐメカニズムの一部が今回解明されたことを発端として、不安障害や不眠症などに効果のある新たな医薬品開発につながることが期待されます。
本研究は文部科学省科学研究費(課題番号:15H03122、16H06401)などの支援によって実施されました。この成果は2017年6月22日に米国科学雑誌Journal of Neuroscience誌オンライン版にて公開されます。

 

【研究の背景】
動物の睡眠覚醒状態は、体内時計や睡眠負債(先行する覚醒の長さ)の影響を受けて変化します。それらに加えて、生体内外の環境によっても大きく影響を受けます。環境に恐怖や報酬の対象となるものが存在すると情動が発動し、交感神経系の興奮やストレスホルモンの分泌とともに、覚醒を引き起こします。これは、環境に合わせて睡眠覚醒状態を適切にシフトする機能です。一方、明確な対象のない、漠然とした不安も覚醒に影響し、こうした情動が不眠症の根底にあることがよく知られています。しかし、実際にどのような神経科学的なメカニズムがそこに介在しているかは、これまで明らかになっていませんでした。本研究では、恐怖や不安などの情動をつかさどる大脳辺縁系がどのようなしくみで覚醒に影響を与えるかを明らかにすることを目的として、マウスを用いた実験を行ないました。

 

【研究内容と成果】
大脳辺縁系の一部で、恐怖や不安に関与する領域である分界条床核は、脳内の複数の領域に投射して情動を制御しています。研究グループは、分界条床核に局在するGABA作動性ニューロン*2に着目し、その覚醒制御における役割を解析しました。光遺伝学*3という手法を用いて分界条床核に存在するGABA作動性ニューロンを特異的に興奮させたところ、ノンレム睡眠をしていたマウスが直ちに覚醒することが明らかになりました(図1)。


図1:今回の研究で使用された実験方法
図1:今回の研究で使用された実験方法

 

しかし、レム睡眠時に同様の刺激を与えても何も効果がみられませんでした。ノンレム睡眠から覚醒に直ちに移行するこの作用に、覚醒に関与する脳内物質であるオレキシンが関与しているかを調べるため、オレキシン受容体拮抗薬*4を用いた実験を行ないましたが、影響はありませんでした。したがって、この覚醒作用にはオレキシンは関与していないことが明らかになりました。一方、分界条床核に存在するGABA作動性ニューロンを薬理遺伝学*5という手法により持続的に興奮させたところ、覚醒時間の延長とノンレム睡眠・レム睡眠両方の減少が認められました。この作用は、先述のオレキシン受容体拮抗薬により強く阻害されました。これらの結果から、①ノンレム睡眠時に分界条床核のGABA作動性ニューロンが興奮することで覚醒が惹起されるが、ここにはオレキシンの作用は介在しないこと、②分界条床核のGABA作動性ニューロンが持続的に興奮するとオレキシン系が動員され、その作用によって覚醒が維持されること、が明らかになりました。本研究により、不安などの情動に大きく関与する分界条床核におけるGABA作動性ニューロンが覚醒を誘導するメカニズムの一端が明らかになったのです。


図2 不安に関与する分界条床核GABA作動性ニューロンの機能がたかまると不眠が生じる
図2 不安に関与する分界条床核GABA作動性ニューロンの機能がたかまると不眠が生じる

 

GABAは、抑制性の神経伝達物質でその機能を脳内で広範に高めると抗不安作用、催眠作用があるとされています。しかし、今回の実験で分界条床核など一部の脳の領域ではむしろ覚醒に関わっていることも示されました(図2)。
現在、臨床的に不眠症治療薬として使われてるようになっているオレキシン受容体拮抗薬は、持続的な不安にもとづく不眠を改善する効果があるが、情動による即時の覚醒応答自体には影響をあたえないため、例えば、就寝時に危険が発生しても覚醒を妨げることがないということも示唆されました。

 

【今後の展開】
不眠症の根底には不安が存在することが多く、そのメカニズムには分界条床核やオレキシンが関与していることがわかってきました。これらの領域をターゲットとすることで、不安障害や不眠症などに効果のある医薬品の開発につながるかもしれません。また、オレキシン受容体拮抗薬はすでに不眠症治療薬として実用化されており、その詳しい作用メカニズムを理解するうえでも重要な知見となると考えられます。

 

用語解説
(1) 情動:喜び、悲しみ、怒り、恐怖、不安といった本能的な心の動きのことで、 目や耳などの感覚器官から得た情報に対する脳の反応。「感情」を客観的に読み取ったものともいえる。
(2)GABA作動性ニューロン:GABAを神経伝達物質とするニューロン。GABAはアミノ酸の一種で、脳内でもっとも多く使われる抑制性の脳内物質。
(3) 光遺伝学:藻類に存在する光に感受性を持つ遺伝子を用いて、特定の神経細胞を操作(刺激・抑制)することによってその機能を知る方法
(4) 受容体拮抗薬:生体内で機能する生理活性物質の受容体に結合し、本来作用する物質の機能を阻害する薬物
(5) 薬理遺伝学:人工で作られた化合物にのみ反応する人工の受容体を特定の神経細胞に発現させその神経細胞のみを化合物を動物に投与することによって操作する方法

 

お問い合わせ
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)広報連携チーム
住所 〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-1 睡眠医科学研究棟
E-mail wpi-iiis-alliance@ml.cc.tsukuba.ac.jp
電話 029-853-5857

投稿日:2017年07月31日

「大脳皮質における動的ベイズ推定の神経基盤」
船水章大 (公募班員)
沖縄科学技術大学院大学 (OIST)

Neural substrate of dynamic Bayesian inference in the cerebral cortex.
Funamizu A, Kuhn B, Doya K.
Nature Neuroscience (2016) doi:10.1038/nn.4390.

プレスリリース(日本語)(2016.9.20)
プレスリリース(英語)(2016.9.20)


「大脳皮質における動的ベイズ推定の神経基盤」

概要
 不確かな感覚情報を自分の行動に補い合わせることで現在の状況を推定することは,ヒトや動物の高度な認知機能のひとつで,そのしくみの解明は脳科学の大きな課題です.一方,この脳科学上の課題は,工学分野では,動的ベイズ推定という理論で実現されています.本研究は,大脳皮質の頭頂葉が,動的ベイズ推定の重要な2要素を実現することを発見しました.具体的には,頭頂葉は,自身の運動による状況変化の予測と,感覚情報による予測の更新を実現しました.本研究は,これまで理論的な提案にとどまっていた仮説に,実験的な検証で証拠を示した初の成果となります.

はじめに
 動物は,雑音下や暗闇といった感覚情報の不確かな状況でも,行動する必要があります.不確かな感覚情報を行動情報と補い合わせることで現在の状況を推定することが重要です.この推定は,工学分野では,動的ベイズ推定 (例:カルマンフィルター) で実現されています.動的ベイズ推定は,自身の運動による状況の変化を予測し,感覚情報の取得で予測を更新します.例えば,マウスが暗闇を移動する場合,自身の歩行運動と仲間からの声で,巣の位置を推定できます.
 大脳皮質は,ベイズ推定を実装する脳部位として注目されてきました.また,動的ベイズ推定は,人工的な神経回路網で実現できることが示されています.大脳皮質は,6層のコラム構造を持ちますが,皮質2,3,5層の錐体細胞で,ボトムアップ信号 (感覚情報) とトップダウン信号 (自身の運動情報) を統合します.なお,運動情報は,皮質深層での神経活動に特に反映されるため,私たちは,大脳皮質の2,3,5層,特にその深層が,動的ベイズ推定を実装すると予想しました.
 この仮説を検証するために,マウスで,仮想環境下での音源到達課題を実施し,マウスが断続的な聴覚情報のもとで,自身の歩行運動をもとに目標の位置を推定する脳のしくみを調べました.二光子顕微鏡での神経細胞カルシウムイメージングと,脳情報デコーディング技術を用いた結果,大脳皮質の頭頂葉の皮質3・5層は,動的ベイズ推定と同様に,自分の行動をもとに目標位置の変化を予測し,感覚情報で予測を更新することがわかりました.

自らの運動に基づく距離予測
 私たちは,発泡スチロールのボールの上にマウスをのせ,ボールの回転に応じて周囲のスピーカーからの音の強さと方向を変える仮想現実環境を構築しました.音源到達課題の1試行は,音源が約1メートル先の状態から始まり,マウスが前進してボールを回すと,音源が近づきます.マウスが音源の位置に来ると,目の前の管から砂糖水を提示されました.マウスは学習後,音源に近づくにつれて管をなめる行動を増加させました.
 次に私たちは,音源に向かう途中の約20センチのいくつかの区間で,音を止めました.この実験でも,音源に近づくにつれて,マウスは管をなめる頻度を増やしました.この結果は,マウスは自分の歩行運動をもとに目標位置を予測したことを示します.また,私たちは,マウスの頭頂葉に神経活動を抑制する薬 (GABA-A 受容体作動薬:ムシモール) を注入すると,音の無い区間では管をなめる行動が増えない,つまり自分の行動による目標位置の予測がうまくできなくなることを発見しました.

頭頂葉の神経細胞による動的ベイズ推定の実現
 8匹のマウスで,音源到達課題時の頭頂葉の数百個の神経細胞の活動を,二光子顕微鏡で同時計測しました.多くの神経細胞は,目標位置への距離に応じて活動を変化させました.また,これらの神経細胞の多くは,音の無い区間でも,その活動を維持しました.
 神経細胞集団の活動が意味するものを探るため,私たちは脳情報デコーディング技術を応用しました.この技術は,音のある区間で個々の神経細胞がどの距離でどれくらい活動するかという特性(コーディング)を調べて,ある時点での多数の細胞の活動からゴール距離を確率的に推定(デコーディング)します.頭頂葉の神経細胞集団は,音の無い区間でも,マウスの歩行に応じたゴール距離の変化を予測しました (図1).また,音のある区間では,距離予測の精度が向上しました.頭頂葉は,外界からの感覚情報が無い場合にも行動から現在の状態を予測し,感覚情報が得られるとその予測を更新するという,動的ベイズ推定を実現していることが明らかになりました.

おわりに
 これまで,大脳皮質の神経回路が動的ベイズ推定を行うという理論的な仮説はありましたが,実験的に検証されていませんでした.私たちは,課題中のマウスの多数の神経細胞の活動を計測・解析することで,大脳皮質の頭頂葉が自らの運動情報による動的ベイズ推定に関わることを示す証拠を得ました.
 本研究は,新学術領域研究「適応回路シフト」と新学術領域研究「予測と意思決定」(http://www.decisions.jp) との連携により得られた成果のひとつです.また,本研究は,科研費若手B,沖縄科学技術大学院大学の研究費の補助を受けて実施されました.

 



投稿日:2016年10月27日

特定の嗅球介在ニューロンはにおいの検出感度と識別という嗅覚行動に必須である
坪井昭夫(公募班員)
奈良県立医科大学

A subtype of olfactory bulb interneurons is required for odor detection and discrimination behaviors
Takahashi H, Ogawa Y, Yoshihara S, Asahina R, Kinoshita M, Kitano T, Kitsuki M, Tatsumi K, Okuda M, Tatsumi K, Wanaka A, Hirai H, Stern PL and Tsuboi A
The Journal of Neuroscience 36:8210-8227 (2016)

プレスリリース(2016.8.4)


においの検出感度と識別に関する神経メカニズムに迫る

【研究の背景】
 嗅細胞で受容されたにおい情報は、まず一次中枢である嗅球で処理され、そののち嗅皮質へと伝えられて識別されます。嗅球の神経回路では、抑制性の介在ニューロン(傍糸球細胞・顆粒細胞)が、興奮性の投射ニューロン(外房飾細胞・僧帽細胞)の神経活動を調節することによって、においの情報処理が行われています(図1)。また、嗅球介在ニューロンの大多数をしめる顆粒細胞には、樹状突起の形態の異なる複数種類のサブタイプが存在することが知られています。しかしながら、においの情報を処理する際に、特定の顆粒細胞のサブタイプがどのような役割を果たしているのかについては、全く明らかにされていませんでした。

【本研究の成果】
 私共はこれまでに、5T4という一回膜貫通型の糖蛋白質が顆粒細胞の中の特定のサブタイプ(以下、5T4顆粒細胞)で、におい刺激に応じて産生されて、樹状突起の枝分かれを制御していることを見出しました。そこで本研究では、顆粒細胞の樹状突起の枝分かれが減少している5T4欠損マウスから嗅球スライスを作製し、5T4顆粒細胞の樹状突起を電気刺激することにより、投射ニューロンへの抑制性の入力がどのように変化するのかを調べました。興味深いことに、野生型と比較して5T4欠損マウスでは、投射ニューロンの中の外房飾細胞のみにおいて、5T4顆粒細胞からのGABAA受容体を介した抑制性の入力が顕著に減少していました。また、顆粒細胞は投射ニューロンと、樹状突起を介した双方向性のシナプスを形成することが知られています。そこで、投射ニューロンから5T4顆粒細胞への興奮性の入力についても検討したところ、5T4欠損マウスでは5T4顆粒細胞への興奮性の入力も顕著に減少していました。これらの結果から、5T4欠損マウスでは、5T4顆粒細胞の樹状突起の枝分かれが減少して、外房飾細胞との樹状突起を介した接続も減少していることが明らかになりました(図2)。
 次に、におい物質の濃度を変えてマウスに提示して、探索行動をするにおいの検出感度を調べたところ、5T4欠損マウスでは野生型と比較して、約100倍低下していることが明らかになりました(図2)。さらに、においの識別能について、2つのにおい分子AとBに対する学習行動の実験を行いました。2つのにおいが単独で存在する場合には、野生型と5T4欠損マウスは共に、それぞれを識別できました。しかしながら、2つのにおいが共存する場合には、野生型マウスはにおい分子AとBを識別することができましたが、5T4欠損マウスはできませんでした。これらの結果から、他のにおいが高い濃度で存在する場合には、5T4欠損マウスは目的のにおいを嗅ぎ分ける能力に異常が生じていると考えられます。
 以上の結果により、5T4顆粒細胞という嗅球介在ニューロンのサブタイプが、においの検出と識別に必須の役割を果たしていることが明らかになりました。今後、5T4顆粒細胞以外のサブタイプについても同様な解析を行うことにより、嗅球介在ニューロンを介したにおい情報処理のメカニズムがさらに明らかになると考えています。また本研究から、遺伝的な嗅覚障害、並びに、加齢や神経疾患に伴う嗅覚機能の低下に、5T4顆粒細胞が関与している可能性が示唆されますので、“人為的に5T4顆粒細胞を活性化することにより、低下した嗅覚機能を回復させる”といった新たな治療法の開発にもつながると期待されます。



 

投稿日:2016年08月05日

カテゴリー化によって大量の情報を整理する神経メカニズム
筒井健一郎(計画班員)
東北大学

Representation of functional category in the monkey prefrontal cortex and its rule-dependent use for behavioral selection.
Ken-Ichiro Tsutsui*+, Takayuki Hosokawa*, Munekazu Yamada, Toshio Iijima
* equally contributed, +corresponding author
Journal of Neuroscience 36(10): 3038-3048 (2016)

プレスリリース(2016.3.8)

私たちは身のまわりの環境にあふれる膨大な情報を、どのように整理して認識し、判断や行動のために使っているのでしょうか? 筒井健一郎先生(計画班員)と共同研究者の細川貴之博士らは、サルを使った動物実験で、カテゴリー化によって情報を整理して判断することに関係する神経活動を、高次脳機能の中枢として知られている前頭連合野において発見しました。本研究では、ニホンザルに、呈示された視覚刺激からその後にどのような飲み物が与えられるかを予測する課題を訓練したうえで、前頭連合野から神経活動を記録しました。その結果、前頭連合野の一部の神経細胞が、概念の一種であるカテゴリーや、それを使って予測した結果の情報を保持していることを見出しました。この発見により、脳がその基本戦略として、膨大な情報をカテゴリー化によって整理し、物事の関係性を分かりやすくしたうえで、思考や判断に使っているということが明らかになりました。

この成果により、抽象的概念の形成やそれを使った論理的思考にかかわる神経メカニズムの解明が大きく進むことが期待されます。また、抽象的な思考が不得意だとされるアスペルガー症候群などの発達障害の病態の理解や、新たな治療法の開発にもつながることが期待されます。この研究成果は、脳神経科学のトップジャーナルのひとつである Journal of Neuroscience 誌3月号(3月9日発行)に掲載されました。

図1:実験装置とサルに行わせた課題の概要
サルは、数秒後に、口元のチューブから、ジュースがでてくるのか、食塩水がでてくるのかを、スクリーンに呈示された図形のカテゴリーを基に予測する。一定期間の訓練の後、サルは、ジュースを予測すると、それが口元のチューブから出てきたときに取りこぼしなく飲めるようにチューブを舐めながら待ち、食塩水を予測すると、それを飲まないで済むように口を閉じて待つようになった。

図2:記録された神経活動の代表例
A: いずれのルールのもとでも、カテゴリーAの図形が呈示されたときに活動が上昇する神経細胞の一例。このような活動を示す神経細胞は、カテゴリーの情報を保持しているといえる。
B: ルールXのもとではカテゴリーAの図形、ルールYのもとではカテゴリーBの図形が呈示されたときに活動が上昇する神経細胞の一例。常に特定の結果(ジュース)が予想される条件で活動が上昇していることから、このような活動を示す神経細胞は、予測の結果の情報を保持しているといえる。

 

投稿日:2016年03月10日

学習初期に失敗するほど成績が伸びる
佐々木拓哉(公募班員)
東京大学

Early Failures Benefit Subsequent Task Performance
Igata H, Sasaki T, Ikegaya Y
Sci Rep. 6:21293 (2016)

生物が自然環境で生き抜くためには、刻々と変化する状況の中で最適な行動をとることが重要です。これまで実験室では、単純化した迷路課題を用いてマウスなどの学習能力についての研究が多くなされてきましたが、実際に自然のなかで生きていくのに必要な問題解決能力についてはほとんど調べられていませんでした。

本研究では、ゴールに到達できる経路が多数ある迷路を製作し、さらに途中で迷路の一部を閉鎖・再開放するなど、より自然に近い環境でのマウスの行動を詳細に解析しました。その結果、学習の初期に、より多くの失敗(無効な探索)をしたマウスのほうが、複数の経路から最短経路を見つけるのが早く、また迷路の一部が閉鎖された際にも、より効率的な迂回路を見つけることができることを見出しました。

本研究から、マウスのような動物は、多数の選択肢から最適なものを見つけることができ、この能力には過去の失敗経験が大きく関わっていることが明らかになりました。迷路課題の設定と、マウスのすべての行動の解析が、本研究成果を見出した鍵です。本研究で用いたような迷路課題には、脳内での認知地図形成が大きく関わっていると考えられています。近年の場所細胞の研究と合わせて、柔軟な問題解決の脳内メカニズムの解明に向けたさらなる研究が期待されます。
研究成果は、報道番組「ニュースゼロ」(日本テレビ23:00~)などの各種メディアで紹介されました。

リンク先: http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=406978

 

投稿日:2016年02月23日