1期 – 行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構 https://sips-jp.com/demo/acs 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究:「行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構」(略称:適応回路シフト)に関するサイトです Tue, 25 Apr 2017 00:47:05 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.7.2 佐野 裕美(生理学研究所) https://sips-jp.com/demo/acs/public/836/ https://sips-jp.com/demo/acs/public/836/#respond Sun, 20 Dec 2015 04:01:54 +0000 http://www.fmu.ac.jp/acs/?p=836 「大脳基底核変性疾患における回路変動と不随意運動出現の因果関係」 パーキンソン病、ハンチントン病、ジストニアといった神経疾患で起こる運動異常は、大脳基底核の障害により生じることが知られています。大脳基底核には、直接路・間接路・ハイパー直接路と呼ばれる3つの経路があり、大脳皮質からの指令はこの3つの経路を通って大脳基底核の出力部である黒質網様部/淡蒼球内節に伝えられ、運動が制御されると考えられています。]]> 「大脳基底核変性疾患における回路変動と不随意運動出現の因果関係」

パーキンソン病、ハンチントン病、ジストニアといった神経疾患で起こる運動異常は、大脳基底核の障害により生じることが知られています。大脳基底核には、直接路・間接路・ハイパー直接路と呼ばれる3つの経路があり、大脳皮質からの指令はこの3つの経路を通って大脳基底核の出力部である黒質網様部/淡蒼球内節に伝えられ、運動が制御されると考えられています。

私の所属する研究室では、大脳基底核による運動の調節機構を調べるため、大脳基底核や大脳基底核と連絡する脳領域において神経の活動を記録し、神経活動と運動との関係を調べています。大脳基底核が障害された際に、どのように神経活動が変化して症状が発現するのか病態生理を解明することは、治療法の確立のためにも非常に重要です。

大脳基底核の代表的な疾患であるパーキンソン病は中脳の黒質緻密部にあるドーパミンニューロンの変性に起因する神経変性疾患で、無動、寡動、筋強剛などの症状が認められます。治療にはドーパミンを補うようにドーパミンの前駆体であるL-DOPAの投与が広く使われており、運動障害が回復します。ところが、L-DOPAを長期間服用すると、ジスキネジアと呼ばれる不随意運動が出現します。この不随意運動の出現は長期間のL-DOPA投与により大脳基底核の回路動態が変化し、機能シフトが生じた結果だと考えられます。

そこで、この研究では、薬剤を用いて作出したパーキンソン病モデルマウスにL-DOPAを投与して不随意運動を誘発し、不随意運動が出現する前後での大脳基底核の神経活動を記録し、比較します。一方で、トランスジェニックマウスあるいはウイルスベクターを用いて光遺伝学を利用し、大脳基底核を構成する神経経路の活動を操作し、不随意運動が出現しているときと同様の神経活動を誘導します。このとき、不随意運動が出現するのかどうかを検証します。さらに、L-DOPAを投与して不随意運動を誘発したパーキンソン病モデルマウスにおいて、光遺伝学を利用して神経回路の動態変化を元に戻したとき
に、不随意運動が消失するのかどうかを検証します。これらの実験から、L-DOPA投与で変化した神経活動と不随意運動の因果関係の解明に迫ります。

 

 
最近の主要論文
1. Sano H, Murata M, Nambu A (2015) Zonisamide reduces nigrostriatal dopaminergic neurodegeneration in a mouse genetic model of Parkinson’s disease. J Neurochem 134(2):371-81.
2. Sano H, Chiken S, Hikida T, Kobayashi K, Nambu A (2013) Signals through the striatopallidal indirect pathway stop movements by phasic excitation in the substantia nigra. J Neurosci. 33(17):7583-94.
3. Bepari AK, Sano H, Tamamaki N, Nambu A, Tanaka KF, Takebayashi H (2012) Identification of optogenetically activated striatal medium spiny neurons by Npas4 expression. PLoS One 7(12):e52783.
4. Tanaka KF, Matsui K, Sasaki T, Sano H, Sugio S, Fan K, Hen R, Nakai J, Yanagawa Y, Hasuwa H, Okabe M, Deisseroth K, Ikenaka K, Yamanaka A (2012) Expanding the repertoire of optogenetically targeted cells with an enhanced gene expression system. Cell Rep 2(2):397-406.

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武内 恒成(愛知医科大学) https://sips-jp.com/demo/acs/public/834/ https://sips-jp.com/demo/acs/public/834/#respond Sun, 20 Dec 2015 04:01:20 +0000 http://www.fmu.ac.jp/acs/?p=834 「脳脊髄損傷後再生における神経回路再編の動態解析-細胞外環境制御とウイルス導入系-」 中枢神経系の発生や再生過程においては、神経回路の編成や再編成は、神経細胞に存在する細胞接着分子と細胞外基質の相互作用によって制御されています。特に細胞外基質においては、様々なタンパク質分子だけではなく多くの糖鎖構造が機能を担っており、]]> 「脳脊髄損傷後再生における神経回路再編の動態解析-細胞外環境制御とウイルス導入系-」

中枢神経系の発生や再生過程においては、神経回路の編成や再編成は、神経細胞に存在する細胞接着分子と細胞外基質の相互作用によって制御されています。特に細胞外基質においては、様々なタンパク質分子だけではなく多くの糖鎖構造が機能を担っており、神経回路形成と回路の機能成熟過程にコンドロイチン硫酸(CS)およびヘパラン硫酸(HS)プロテオグリカンなどが示す重要性も注目されている。また、脊髄損傷をはじめ中枢神経系が障害を受けた場合には、CSが大量発現して神経の再生阻害因子として機能します。つまり発生過程とは逆の側面を示し再生後治療を困難なものとしています。神経再生医療のためには、これら糖鎖発現の制御も重要なテーマとなるわけです。我々は、CSの発現制御を行うことによって、脊髄損傷後マウスが劇的な機能回復と神経再生能を持つことを見出しました。さらに、CSとその受容体接着分子が発生過程における神経細胞移動や細胞極性決定に関わることも解析を継続しています。 そこで、これら糖鎖および接着分子の発現制御を駆使して神経再生治療へ生かすこと、さらにはその過程で神経回路編成がいかに行われているか、を技術開発も進めながら理解を深めてゆくことを目標としています。神経回路の障害後再生時に、脊髄においてはいかなる経路から回復を示すか、そのトリガーは神経軸索再生によるか神経発芽によるものか、そのとき細胞外基質の糖鎖構造はどのような影響を及ぼしているかを探ってゆきます。我々はすでに、糖鎖発現レベルを遺伝子ノックアウト技術および組織部位特異的遺伝子ノックダウン技術(図1)を駆使することによって制御することを可能としています。損傷後再生回復能を段階的に操作できるため、回路再編成過程を修復能の段階と時間軸による継続的解析から詳細に解析してゆきます。具体的には、領域代表の小林和人先生と連携でウイルスベクターを用いた経路選択的なトレースによって、特に神経再編成時のメカニズムをトレーシング解析する技術開発も進めます。またその技術を通して、再生の定量的解析だけではなく治療応用への可能性も探りたいと考えています。 さらには、脊髄回路のみならず脳内における回路再生と回路柔軟性を解析するために、線条体神経回路における神経再生実験と経路別機能特性の解明も手がけます。RNAガイド遺伝子操作原理にもとづく回路操作の新しい技術の開発も手がけ、レンチウイルスベクターを介したRNA干渉による標的遺伝子ノックダウン誘導やCRISPR/CAS9システムによる遺伝子ターゲティング技術を神経回路再編成解析に持ち込むことを計画しています。神経再生における回路再編の解明、および、とくに脊髄損傷治療および中枢神経系損傷後の回復治療へつながる研究へ展開したいと考えています。

 

 
最近の主要論文
1. Takeuchi K., Yoshioka N., Higa S., Watanabe Y., Miyata S., Wada Y., Kudo C., Okada M.., Ohko K., Oda K., Sato T., Yokoyama M., Matsushita N., Nakamura M., Okano H., Sakimura K., Kawano H., Kitagawa H. and Igarashi M. (2013) Chondroitin sulphate N-acetylgalactosaminyltransferase-1 inhibits recovery from neural injury. Nature Communication  4 : 2740  (2013)
2. Okamoto M., Namba T., Shinoda T., Kondo T., Watanabe T., Inoue Y., Takeuchi K., Enomono Y.,Ota K., Oda K., Wada Y., Sagou K., Saito K., Sakakibara A., Kawaguchi A., Nakajima K., Fujimori T., Ueda M., Hayashi S., Kaibuchi K. and Miyata T. (2013) TAG-1-assisted progenitor elongation streamlines nuclear migration to optimize subapical crowding. Nature Neuroscience 16 : 1556-1566
3. Namba T., Kibe Y., Funahashi Y., Nakamuta S., Takano T., Ueno T., Shimada A., Kozawa S., Okamoto M., Shimoda Y., Oda K., Wada Y., Masuda T., Sakakibara A., Igarashi M., Miyata T., Faivre-Sarrailh C., Takeuchi K. and Kaibuchi K. (2014) Pioneering Axons Regulate Neuronal Polarization in the Developing Cerebral Cortex. Neuron  81: 814-829

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坪井 昭夫(奈良県立医科大学) https://sips-jp.com/demo/acs/public/832/ https://sips-jp.com/demo/acs/public/832/#respond Sun, 20 Dec 2015 04:00:42 +0000 http://www.fmu.ac.jp/acs/?p=832 「成体神経新生を利用した障害脳神経回路の機能的再建」 嗅球介在ニューロンは、成体になっても常に、側脳室の周囲で生まれ、匂い情報を処理する嗅球へ移動して、その神経回路に組み込まれている(右図A)。興味深いことに、通常、嗅球へ移動する介在ニューロンが、脳梗塞時には少数ではあるが、その移動先を変え、梗塞部位である線条体の神経回路に到達することが知られている。]]> 「成体神経新生を利用した障害脳神経回路の機能的再建」

嗅球介在ニューロンは、成体になっても常に、側脳室の周囲で生まれ、匂い情報を処理する嗅球へ移動して、その神経回路に組み込まれている(右図A)。興味深いことに、通常、嗅球へ移動する介在ニューロンが、脳梗塞時には少数ではあるが、その移動先を変え、梗塞部位である線条体の神経回路に到達することが知られている。しかしながら、梗塞層へ移動した新生ニューロンの大部分は、形態的に十分に発達できないため、神経回路に組み込まれずに死んでしまう。そこで本研究では、人為的に新生ニューロンの発達を促進し、失われた回路機能を代償するという「適応回路シフト」を活性化することで、脳機能の回復に繋げる。具体的には、中大脳動脈閉塞(MCAO)を行なった脳梗塞モデルマウスを用いて、以下の解析を行う。

1)新生ニューロンによる脳梗塞時の神経回路の修復:申請者らは、健常時の嗅球における新生ニューロンの発達に、①神経活動依存的な発達制御と②血管と神経の相互作用が必須の働きをすることを見出している。そこで、ニューロンの発達を活性化する遺伝子(5T4やNpas4など;右図B)を、レンチウイルスを用いて新生ニューロンに遺伝子導入した後に、MCAOを行なった梗塞部位における新生ニューロンの生存率・樹状突起の発達・シナプス形成に対する影響を、組織染色等で検討する。

2)脳梗塞の周辺領域で発現する遺伝子の機能解析:MCAO時に梗塞層の周囲で発現する遺伝子を、RNAシークエンシングにより網羅的に探索し、in situハイブリダイゼーションにより、候補遺伝子を絞る。そして、脳梗塞時に、候補遺伝子を欠損・過剰発現させた場合の、新生ニューロンの生存や神経回路への編入に対する効果を検討する。

本研究は、高次脳機能障害の病態や脳損傷後に起こる機能代償のメカニズムについて、神経回路レベルでの理解に結び付き、疾患の病態を改善・回復させるための科学的エビデンスに基づいた合理的な治療法の開発に繋がると期待できる。

 

 
最近の主要論文
1. Yoshihara S, Takahashi H, Tsuboi A (2016) Molecular mechanisms regulating the dendritic development of newborn olfactory bulb interneurons in a sensory experience-dependent manner. Front Neurosci 9:514.
2. Yoshihara S, Takahashi H, Nishimura N, Kinoshita M, Asahina R, Kitsuki M, Tatsumi K, Furukawa-Hibi Y, Hirai H, Nagai T, Yamada K, Tsuboi A (2014) Npas4 regulates Mdm2 and thus Dcx in experience-dependent dendritic spine development of newborn olfactory bulb interneurons. Cell Rep 8:843-857.
3. Yoshihara S, Takahashi H, Nishimura N, Naritsuka H, Shirao T, Hirai H, Yoshihara Y, Mori K, Stern PL, Tsuboi A (2012) 5T4 glycoprotein regulates the sensory input-dependent development of a specific subtype of newborn interneurons in the mouse olfactory bulb. J Neurosci 32:2217-2226.
4. Takeuchi H, Inokuchi K, Aoki M, Suto F, Tsuboi A, Matsuda I, Suzuki M, Aiba A, Serizawa S, Yoshihara Y, Fujisawa H, Sakano H (2010) Sequential arrival and graded secretion of Sema3F by olfactory neuron axons specify map topography at the bulb. Cell 141:1056-1067.

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飛田 秀樹(名古屋市立大学) https://sips-jp.com/demo/acs/public/830/ https://sips-jp.com/demo/acs/public/830/#respond Sun, 20 Dec 2015 04:00:13 +0000 http://www.fmu.ac.jp/acs/?p=830 「脳出血後のリハビリによる上肢機能の回復過程における皮質赤核路の関与に関する研究」 脳障害後の集中的なリハビリテーションは、ヒトがもつ内在的な回復能を高め、神経回路の再構成に大きな影響を及ぼし、運動機能の再建を導く有効な方法である。その過程で、新たな神経回路への適応的なシフトが関与すると示唆されている。]]> 「脳出血後のリハビリによる上肢機能の回復過程における皮質赤核路の関与に関する研究」

脳障害後の集中的なリハビリテーションは、ヒトがもつ内在的な回復能を高め、神経回路の再構成に大きな影響を及ぼし、運動機能の再建を導く有効な方法である。その過程で、新たな神経回路への適応的なシフトが関与すると示唆されている。

我々のグループは、皮質脊髄路のボトルネック部位である内包に限局した小出血を生じさせ永続的な運動麻痺を示す内包出血モデル動物を用い、脳内出血後の集中的なリハビリテーションが中枢神経系の再編に及ぼす影響の検討を行っている。

これまでに、非麻痺肢(健常側)の拘束によって麻痺肢を集中的に使用させるリハビリテーションを行わせ、中枢神経系の可塑的変化と運動機能回復との関連性について検討してきた。その結果、内包出血後早期からの麻痺肢の集中使用によって、出血側の運動野において前肢体部位表現マップが拡大していること、また同領域から赤核への投射が増加していることを明らかにした。また伊佐グループとの共同研究を進め、ウイルス二重感染法により皮質-赤核投射路を選択的に阻害し、同経路がリハビリテーション後の運動機能改善と因果関係を有することを明らかにした。

本課題では、リハビリテーション効果と皮質-赤核路の関係性についてより詳細な解析を行う予定である。具体的には、リハビリテーション実施中のこの経路を選択的阻害する等、神経系の再編機構において皮質-赤核路を中心とする脳幹-脊髄路系がどのように関わるかについて明らかにしていく予定である。最終的には、そうした可塑的変化を惹起する分子生物学的要因についても解析を計画している。

本研究により、脳血管障害後の集中的なリハビリテーションにおける作用機序の解明、および赤核を中心とした脳幹運動系におけるuse-dependent compensationに関する理解が進むことが期待される。これらの知見はリハビリテーションの発展・開発において重要な鍵となると考えている。

 

 
最近の主要論文
1. Ishida A, Misumi S, Ueda Y, Shimizu S, Jung C-G, Tamakosh K, Ishida I, Hida H. Early constraint-induced movement therapy promotes functional recovery and neuronal plasticity in a subcortical hemorrhage model rat. Behav Brain Res. 284, 158-66, 2015
2. Ueda,Y, Masuda T, Ishida A, Misumi S. Shimizu, Y, Jung C-G, Hida H. Enhanced electrical responsiveness in the cerebral cortex with oral melatonin administration after a small hemorrhage near the internal capsule in rats J Neurosci Res, 92(11): 1499-508, 2014.
3. Ishida A, Tamakoshi K, Hamakawa M, Shimada H, Nakashima H, Masuda T, Hida H, Ishida K. Early onset of forced impaired forelimb use causes recovery of forelimb skilled motor function but no effect on gross sensory-motor function after capsular hemorrhage in rats. Behav Brain Res. 225(1):126-34. 2011
4. Masuda T, Hida H, Kanda Y, Aihara N, Ohta K, Yamada K, Nishino H, Oral administration of metal chelator ameliorates motor dysfunction after a small hemorrhage near the internal capsule in rat. J Neurosci Res 85, 213-222. 2007

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玉巻 伸章(熊本大学) https://sips-jp.com/demo/acs/public/827/ https://sips-jp.com/demo/acs/public/827/#respond Sun, 20 Dec 2015 03:59:43 +0000 http://www.fmu.ac.jp/acs/?p=827 「大脳新皮質神経細胞の脱落に伴って起きる神経細胞の新生現象の解明」 昨今、再生医療の発展により、人の様々な臓器の機能を回復できる未来が見え来ました。しかし脳機能の維持、回復を図る治療法も同時に実現できなければ、増える高齢者の介護の為に、多くの働き手の時間が占有されてしまい、日本社会が麻痺しかねません。]]> 「大脳新皮質神経細胞の脱落に伴って起きる神経細胞の新生現象の解明」

昨今、再生医療の発展により、人の様々な臓器の機能を回復できる未来が見え来ました。しかし脳機能の維持、回復を図る治療法も同時に実現できなければ、増える高齢者の介護の為に、多くの働き手の時間が占有されてしまい、日本社会が麻痺しかねません。

そのような中、私達は、大脳新皮質の脳室帯から生まれた興奮性と抑制性それぞれの神経前駆細胞の一部は、放射方向に移動して脳軟膜を貫き、軟髄膜のpia-progenitorに成ることを発見しました。軟髄膜のpia-progenitorは、脳に異常が生じた際に大脳新皮質外表面で増殖し、再び軟膜を貫いて大脳新皮質に入り、興奮性又は抑制性の新皮質神経細胞になります(Neuro2013 にて発表)。軟髄膜のpia-progenitor を刺激して神経細胞を新生させるには、pia-progenitorの細胞増殖因子受容体の情報が必要となりますが、私共がこれまでに蓄積してきた胎児期の脳室下帯に分布する神経前駆細胞の遺伝子プロファイルを、そのまま使用することができることも分かりました。さらに人癲癇患者の脳脊髄液(CSF)を調べると、pia-progenitor の増殖因子が見つかるので、マウスの実験で観察された神経細胞新生現象を、人でも再現できる可能性が見えて来ました。本研究では、CSF中の細胞増殖因子をどのように調整すればpia-progenitorによる神経細胞新生現象を高め、傷害を受けた大脳新皮質の神経細胞数を増やし、脳機能を回復させることができるかを研究しております。

 

図:軟膜中に見つかるpiaprogenitorは、新皮質の錐体細胞と抑制性神経細胞が分泌する細胞増殖因子で増殖し、神経細胞に分化します。

 
最近の主要論文
1. Yamaguchi M, Seki T, Imayoshi I, Tamamaki N, Hayashi Y, Tatebayashi Y, Hitoshi S. (2015) Neural stem cells and neuro/gliogenesis in the central nervous system: understanding the structural and functional plasticity of the developing, mature, and diseased brain. J Physiol Sci 2015 Nov 17.
2. Huang J, Chen J, Wang W, Wei YY, Cai GH, Tamamaki N, Li YQ, Wu SX. (2013) Birthdate study of GABAergic neurons in the lumbar spinal cord of the glutamic acid decarboxylase 67-green fluorescent protein knock-in mouse. Front Neuroanat 9:7:42.
3. Ninomiya S, Esumi S, Ohta K, Fukuda T, Ito T, Imayoshi I, Kageyama R, Ikeda T, Itohara S,Tamamaki N. (2013) Amygdala kindling induces nestin expression in the leptomeninges of the neocortex. Neurosci Res 75(2):121-9.

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山下 俊英(大阪大学) https://sips-jp.com/demo/acs/public/825/ https://sips-jp.com/demo/acs/public/825/#respond Sun, 20 Dec 2015 03:59:06 +0000 http://www.fmu.ac.jp/acs/?p=825 「随意運動神経回路の機能シフト」 本研究では、中枢随意運動回路の可塑性を制御する機構を明らかにすることを目的とする。これまでの研究で、中枢神経損傷後に、運動機能を制御する皮質脊髄路が、損傷を免れた軸索から頚髄のレベルで側枝を形成し、interneuronsに新たな回路を形成することを、申請者は明らかにした。]]> 「随意運動神経回路の機能シフト」

本研究では、中枢随意運動回路の可塑性を制御する機構を明らかにすることを目的とする。これまでの研究で、中枢神経損傷後に、運動機能を制御する皮質脊髄路が、損傷を免れた軸索から頚髄のレベルで側枝を形成し、interneuronsに新たな回路を形成することを、申請者は明らかにした。さらに運動神経回路の再編成現象を明確に評価するin vivoのシステムを確立し、神経回路の可塑性制御に関わる分子を同定した。以上の研究から、皮質脊髄路がどのように末梢神経に至る下位の経路を形成できるのかという疑問にある程度答えることができた。そこで本研究では、まず脳障害後の神経回路修復モデルを用いて、随意運動神経回路の可塑性を制御する上位の神経回路のメカニズムの解明を行う。初年度においては、dopaminergic meso-cortical projectionが一次運動野の可塑性を生み出す可能性について検証し、さらにそのメカニズムの解析を行う。meso-cortical projectionが皮質脊髄路ニューロンにシナプスを形成することで、皮質脊髄路の可塑性が誘導されるかという疑問に答えるために、meso-cortical projection特異的な不活化の技術を用いて検証する。2年次においては、前年度で終了するCREST研究の成果も土台にし、皮質脊髄路の上位および下位を包括して、随意運動システムがどのように可塑的変化を遂げるかという課題に対して、統合的にアプローチする。具体的には、片側脳障害後に皮質脊髄路ニューロンで変化する遺伝子発現を経時的かつ網羅的に解析し、皮質脊髄路の可塑性制御に必要な分子を特定する。In vivoにおいて随意運動回路を制御する分子機構を明らかにすることで、成体における神経回路再編成のメカニズムを解明することを到達目標とする。得られた成果を応用し、皮質脊髄路の可塑性を誘導するメカニズムを強めることで、運動機能障害を効果的に改善させる分子標的を見いだすことを最終目標とする。

 

 
最近の主要論文
1. Ueno, M., Fujiki, R. and Yamashita, T. (2014) A selector orchestrates cortical function. Nat. Neurosci. 17: 1016-1017.
2. Ueno, M., Fujita, Y., Tanaka, T., Nakamura, Y., Kikuta, J., Ishii, M. and Yamashita, T. (2013) Layer V cortical neurons require microglial support for survival during postnatal development. Nature Neurosci. 16: 543-551.
3. Muramatsu, R., Takahashi, C., Miyake, S., Fujimura, H., Mochizuki, H. and Yamashita, T. (2012) Angiogenesis induced by CNS inflammation promotes neural remodeling through vessel-derived prostacyclin. Nature Medicine 18: 1658-1664.
4. Muramatsu, R., Kubo, T., Mori, M., Nakamura, Y., Fujita, Y., Akutsu, T., Okuno, T., Taniguchi, J., Kumanogoh, A., Yoshida, M., Mochizuki, H., Kuwabara, S. and Yamashita, T. (2011) RGMa modulates T cell responses and is involved in autoimmune encephalomyelitis. Nature Medicine 17: 488-494.

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高田 昌彦(京都大学) https://sips-jp.com/demo/acs/public/821/ https://sips-jp.com/demo/acs/public/821/#respond Sun, 20 Dec 2015 03:58:24 +0000 http://www.fmu.ac.jp/acs/?p=821 「サル脊髄損傷モデルを用いた代償性神経回路再編メカニズムの解明」 外傷や梗塞が原因となって脊髄損傷が起きると、運動指令を司る皮質脊髄路(CST)が切断され、損傷部位以下の領域に関わる運動障害・麻痺が発現する。脊髄損傷の後に運動機能の回復がもたらされるためには、ニューロンの可塑的変化によって代償性にCST回路が再編され、正常に働くことが本質的であると考えられるが、]]> 「サル脊髄損傷モデルを用いた代償性神経回路再編メカニズムの解明」

外傷や梗塞が原因となって脊髄損傷が起きると、運動指令を司る皮質脊髄路(CST)が切断され、損傷部位以下の領域に関わる運動障害・麻痺が発現する。脊髄損傷の後に運動機能の回復がもたらされるためには、ニューロンの可塑的変化によって代償性にCST回路が再編され、正常に働くことが本質的であると考えられるが、脊髄損傷後の機能回復と神経回路再編のメカニズムについては未だ不明な点が多い。本研究では、解剖学的(CSTの直接路が存在する)および生理学的(手指の巧緻性が発達している)にヒトに近縁のマカクザルを用いて、脊髄損傷後に起こるCST回路の代償性変化を同定し、機能回
復のメカニズムを解明することを目的とする。具体的には、脊髄損傷からの機能回復に関わる代償性神経回路の動態を、順行性および逆行性トレーサー、さらに逆行性越シナプス的感染能を有する狂犬病ウイルスを用いて機能解剖学的に明らかにする。

主な研究計画は以下のとおりである。
①サル脊髄損傷モデルの作製:マカクザルを用いて、頸髄下部(C7/8レベル)において片側2/3(内側部を除く)を傷害した脊髄損傷モデルを作製する。
②脊髄損傷後の運動機能の解析:脊髄損傷後、自然経過に伴う運動機能の回復過程を、手指の巧緻運動能力を定量的に評価できるBrinkman board testとreaching/grasping taskを用いて解析する。
③脊髄における代償性神経回路の形成様式の解析:運動機能の回復がみられた後、脊髄において代償性のCST回路がどのように再編しているかを明らかにするため、CST線維の脊髄内再分布様式を順行性神経トレーシングにより解析する。
④代償性神経回路の機能回復への寄与の検証:脊髄損傷側と反対側の一次運動野の手指領域を皮質内微小刺激によって刺激し、運動が惹起されることを確認した後、同定した領域にmuscimolを注入し、運動機能の解析をおこなう。
⑤大脳皮質における代償性神経回路の形成様式の解析:通常の逆行性トレーサーと逆行性越シナプス的感染能を有する狂犬病ウイルスを組み合わせた逆行性ニューロンラベルにより、特に運動関連領野におけるCST回路の起始細胞の再構築パターンや直接路 vs 間接路の再形成パターンを検討する。

 

 
最近の主要論文
1. McCairn KW, Nagai Y, Hori Y, Ninomiya T, Kikuchi E, Lee J-Y, Suhara T, Iriki A, Minamimoto T,Takada M, Isoda M, Matsumoto M (2016) A primary role for nucleus accumbens and related
limbic network in vocal tics. Neuron 89:300-307
2. Kawai T, Yamada H, Sato N, Takada M, Matsumoto M (2015) Roles of the lateral habenula and anterior cingulate cortex in negative outcome monitoring and behavioral adjustment in
nonhuman primates. Neuron 88:792-804.
3. Inoue K, Takada M, Matsumoto M (2015) Neuronal and behavioral modulations by pathway-selective optogenetic stimulation of the primate oculomotor system. Nat Commun 6:8378.
4. Nakagawa H, Ninomiya T, Yamashita T, Takada M (2015) Reorganization of corticospinal tract fibers after spinal cord injury in adult macaques. Sci Rep 5:11986.

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木下 専(名古屋大学) https://sips-jp.com/demo/acs/public/819/ https://sips-jp.com/demo/acs/public/819/#respond Sun, 20 Dec 2015 03:58:00 +0000 http://www.fmu.ac.jp/acs/?p=819 「嗅内皮質-海馬歯状回シナプス分子欠乏による空間失認と適応的代償機構の解析」 嗅内皮質―海馬間の双方向性興奮性投射路が構成する閉鎖回路は記憶と空間認知の中枢として重要である。興奮性シナプスの近傍(pre/post/perisynapse)には足場蛋白質セプチン(SEPT1-14)のサブセットから成る線維状重合体が局在してシナプス伝達調節に寄与しているが(2007, 2013, 2015)、postsynapseにおける機能は全く不明である。]]> 「嗅内皮質-海馬歯状回シナプス分子欠乏による空間失認と適応的代償機構の解析」

嗅内皮質―海馬間の双方向性興奮性投射路が構成する閉鎖回路は記憶と空間認知の中枢として重要である。興奮性シナプスの近傍(pre/post/
perisynapse)には足場蛋白質セプチン(SEPT1-14)のサブセットから成る線維状重合体が局在してシナプス伝達調節に寄与しているが(2007, 2013, 2015)、postsynapseにおける機能は全く不明である。当グループは、特定のセプチン・サブユニットを欠損する遺伝子改変マウス系統が空間定位や空間記憶を維持しながらも空間形状の弁別能力を欠くことを一連の行動学的試験により見出した。ヒトにおいては認知症や統合失調症などの部分症状として生じる空間失見当識が深刻な問題となる。そこで上記系統が呈するユニークな認知機能障害の責任領域を精査したところ、上記神経回路の特定のシナプスにおける後シナプス膜上グルタミン酸受容体の欠乏とスパインの未熟化を認め、限局的なシナプス伝達障害が示唆された。しかし、発生期からの慢性的セプチン欠損に対して類似遺伝子が発現変動するなどして異常が代償されている可能性も示唆された。そこで当該シナプスのセプチンを細胞選択的かつ急性に欠乏/欠損させる分子レベルのlesion studyを行い、行動>シナプス微細構造>シナプス分子の3つの階層でフェノタイプを精査する。即ち、1)セプチン急性欠乏によるシナプス阻害により、上記マウスの空間弁別障害の責任シナプスの確定と適応的代償メカニズムの探索を行う。2)セプチン重合の要となる必須サブユニットSEPT7の局所的急性欠損によるシナプス阻害で上記マウスより重度の空間失見当識モデルを作り、この系を活用してシナプス~回路の破綻の病態生理と適応的代償メカニズムを詳細に解析する。空間失見当識の動物モデルを開発・解析し、シナプス分子レベルで発症と代償性回復メカニズムの理解を目指す。

 

 
最近の主要論文
1. Ageta-Ishihara N, Kinoshita M et al., A CDC42EP4/septin-based perisynaptic glial scaffold facilitates glutamate clearance. Nature Communications 6:10090, 2015.
2. Hattori Y, Kinoshita M, Ihara M et al., SIRT1 counters cerebral hypoperfusion injury by deacetylating eNOS. Stroke 45, 3403-3411, 2014.
3. Ageta-Ishihara N, Bito H, Kinoshita M et al., Septins promote dendrite and axon development by negatively regulating microtubule stability via HDAC6-mediated deacetylation. Nature Communications 4, 2532, 2013.
4 Ageta-Ishihara N, Kinoshita M et al., Chronic overload of SEPT4, a parkin substrate that aggregates in Parkinson’s disease, causes behavioral alterations but not neurodegeneration in mice. Molecular Brain 6, 35, 2013.
5. Ihara M, Kinoshita M et al. Sept4, a component of presynaptic scaffold and Lewy bodies, is required for the suppression of α-synuclein neurotoxicity. Neuron 53, 519-533, 2007.

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山中 章弘(名古屋大学) https://sips-jp.com/demo/acs/public/817/ https://sips-jp.com/demo/acs/public/817/#respond Sun, 20 Dec 2015 03:57:34 +0000 http://www.fmu.ac.jp/acs/?p=817 「オレキシン神経脱落による機能シフトが情動脱力発作を引き起こすメカニズム解明」 これまでの研究は、光遺伝学(オプトジェネティクス)や、薬理遺伝学(ファーマコジェネティクス)を用いて、特定の種類の神経活動だけを操作することまたは、特定の神経細胞の運命を制御をおこない、その結果として生じる個体レベルでの変化を解析することで、神経回路機能を明らかにする研究を行ってきている。]]> 「オレキシン神経脱落による機能シフトが情動脱力発作を引き起こすメカニズム解明」

これまでの研究は、光遺伝学(オプトジェネティクス)や、薬理遺伝学(ファーマコジェネティクス)を用いて、特定の種類の神経活動だけを操作することまたは、特定の神経細胞の運命を制御をおこない、その結果として生じる個体レベルでの変化を解析することで、神経回路機能を明らかにする研究を行ってきている。特に、摂食行動、飲水行動、性行動、睡眠覚醒などの本能行動を制御する視床下部神経細胞の役割について中心に解析してきた。本領域の研究では、主に視床下部に存在する神経ペプチド「オレキシン」を産生する神経(オレキシン神経)の回路機能を解析する。睡眠障害のひとつである「ナルコレプシー」は、思春期頃に好発し、オレキシン神経が免疫系の細胞によって攻撃されて特異的に脱落することによって発症することが判明している。ナルコレプシーの症状は、いかなる状況でも眠ってしまうなどの睡眠覚醒調節の異常だけでなく、笑ったり喜んだりした(ポジティブな)情動変化に伴う脱力発作(情動脱力発作)が特徴的である。また、肥満傾向を示すなど代謝調節異常も認められる。私たちはTet-offシステムを用いてオレキシン神経細胞だけを任意の時期に任意の数だけ脱落させることが可能な、新しいナルコレプシーモデルマウスの作出に成功した(Tabuchi et al., J Neurosci 2014; Black et al., J Neurosci 2014)。このマウスは、全ての神経回路網が出来上がった後に、オレキシン神経だけを脱落させることができるため、思春期に発症するヒトのナルコレプシーの症状をほぼ再現可能である。本研究では、この新しいモデルマウスを用いて、オレキシン神経細胞だけを脱落させることで神経回路の機能シフトを生じさせ、ポジティブな情動変化により脱力発作が生じる仕組みについて神経回路レベルにおいて明らかにすることを目的としている。

 

 
最近の主用論文
1. Tabuchi S, Tsunematsu T, Black SW, Tominaga M, Maruyama M, Takagi K, Minokoshi Y, Sakurai T, Kilduff TS, Yamanaka A (2014) Conditional ablation of orexin/hypocretin neurons: a new
mouse model for the study of narcolepsy and orexin system function. J Neurosci 34:6495-6509.
2. Tsunematsu T, Ueno T, Tabuchi S, Inutsuka A, Tanaka KF, Hasuwa H, Kilduff TS, Terao A, Yamanaka A (2014) Optogenetic manipulation of activity and temporally controlled cell-specific ablation reveal a role for MCH neurons in sleep/wake regulation. J Neurosci 34:6896-6909.
3. Inutsuka A, Inui A, Tabuchi S, Tsunematsu T, Lazarus M, Yamanaka A (2014) Concurrent and robust regulation of feeding behaviors and metabolism by orexin neurons. Neuropharmacology 85:451-460.

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高橋 真有(東京医科歯科大学) https://sips-jp.com/demo/acs/public/815/ https://sips-jp.com/demo/acs/public/815/#respond Sun, 20 Dec 2015 03:57:08 +0000 http://www.fmu.ac.jp/acs/?p=815 「経路選択的シナプス遮断法を用いた随意性眼球運動系の神経回路の障害とその再編」 脳は重要な感覚情報である視覚入力を適切に取り込むため、種々の眼球運動サブシステムを使い分けています。目の前に興味のある対象物が現れる時に、急速な眼球運動(サッケード)を、ゆっくり動く視覚対象物を目で追う時に、滑動性眼球運動や輻輳性眼球運動を、静止した視覚対象物を頭部が動く状況下で見る時に前庭動眼反射を用いています。]]> 「経路選択的シナプス遮断法を用いた随意性眼球運動系の神経回路の障害とその再編」

脳は重要な感覚情報である視覚入力を適切に取り込むため、種々の眼球運動サブシステムを使い分けています。目の前に興味のある対象物が現れる時に、急速な眼球運動(サッケード)を、ゆっくり動く視覚対象物を目で追う時に、滑動性眼球運動や輻輳性眼球運動を、静止した視覚対象物を頭部が動く状況下で見る時に前庭動眼反射を用いています。眼球運動は三対の眼筋の収縮・弛緩により発現される3次元(水平、垂直、回旋)運動です(例 前庭動眼反射)。網膜座標系でとらえられた外界の2次元(水平、垂直)の視覚情報が3次元の正確な運動情報に変換されねばならないのですが、サッケードにおいては、網膜上でとらえた物体位置の2次元空間情報(網膜座標系)が、3次元でなく2次元の水平・垂直眼球運動座標系に中枢で変換されています。このサッケードでは回旋成分が含まれない現象は、古くから「Listingの法則」として知られていますが、その神経機構は不明です。

近年、光遺伝学などの技術発展に伴い、神経科学の特に神経回路ネットワークの解析は急速に進展しています。しかしながらあるシステムの機能ネットワークを構成する神経回路の素過程の詳細を解明する際には、素過程の現場を探索し、これに直接アプローチする実験技術が欠かせません。申請者らは、in vivoの高等哺乳動物の細胞内記録による電気生理学実験と単一神経細胞内染色法を用いて、眼球運動制御系の精密な神経回路網の素過程を分析、同定してきました。しかしながら、この同定された回路の機能を解析するには、従来の物理的破壊やムシモルによる化学的機能ブロックしかなく必要以上の部位のブロックを同時に伴ってしまう欠点がありました。最近、この欠点を補うために、脳科学研究戦略推進プログラムで小林和人・伊佐正・渡辺大先生らによってウィルスベクター2重感染法による経路選択的伝達遮断法が新たに開発されました。そこでこの方法を訓練したサルに用いて、神経生理学的・神経解剖学的方法で神経回路を同定したサッケード発現系において、その中の重要な部分を経路選択的に遮断することにより機能障害を生じさせ、特定回路の持つ機能を明らかにしたいと思っています。それによって、眼球運動のセントラルドグマと言われる「Listingの法則」の神経機構を明らかにできれば、これまで経験に頼って行われてきた斜視の手術において、症例ごとにシミュレーションを行い治療方針を理論的に計画し、より効果的な手術が可能となり、斜視の治療に大きな恩恵をもたらすことが期待されます。

 

 
最近の主要論文
1. Takahashi M, Sugiuchi Y and Shinoda Y (2014)  Convergent synaptic inputs from the caudal fastigial nucleus and the superior colliculus onto pontine and pontomedullary reticulospinal neurons.  J Neurophysiol. 111: 849-867.
2. Takahashi M, Sugiuchi Y and Shinoda Y (2010)  Topographic organization of excitatory and inhibitory commissural connections in the superior colliculi and their functional roles in saccade generation.  J Neurophysiol. 104:3146-3167.
3. Takahashi M, Sugiuchi Y and Shinoda Y (2007)  Commissural mirror- symmetric excitation and reciprocal inhibition between the two superior colliculi and their roles in vertical and horizontal eye movements.  J Neurophysiol. 98:2664-2682.

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