FUKUSHIMAいのちの最前線
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574踏まえて何としてもお手伝いをしなければならない──というのが、広島・長崎で学んだ者が共有している思いではないかと思います。 広島大学は、西日本の緊急被ばく医療の拠点である三次被ばく医療機関としても活動していましたので、私どももいち早く福島に駆けつけ、県民の皆さまの安全・安心のために少しでもお役に立てることはないかと活動に入っていました。 福島県立医科大学はこのような状況の中で、福島県民の皆さまの健康に関して最も大きな責任を担っていますし、そのことに非常に真摯に取り組んで来られていると私は思っています。そのお手伝いをできる部分があることは、私どもにとって名誉なことですし、福島県立医科大学が私たちを受け入れていただいたことに本当に感謝しています。菊地 今回の原発事故で本県、あるいは日本という国は、地震や津波による被害もさることながら、人口密集地における低線量長期被ばくという、人類史上誰も経験したことのない環境に置かれています。多分、戦後において初めて日本人が死生観を問われたのではないかと思われる今回の事故の惨状の中で、本学が今後果たしていくべき役割を改めて見つめ直すとすれば、どんなことになると考えますか。山下 今理事長が話された役割とは、まさに歴史的使命ということになろうかと思います。その立ち位置で考えると、地域医療への貢献が当然第一にはありますけれども、同時に、このグローバル化した世界に今回の福島の経験や教訓をどうまとめて生かすか、ということも非常に重要な役割になるでしょう。その流れの中で、原発の良い悪いは別にして、エネルギーと健康問題、あるいは環境と健康問題への取り組みに関して、本学が世界に対して背負った役割というのは非常に大きいと思います。緊急被ばく医療という面でもそうですし、あるいは低線量の慢性放射線被ばくが長く続くという状況の中で住民生活を守るという面でも同じです。福島の教訓を世界にフィードバックをする、そのための橋渡しをする、あるいはそのための拠点を福島県立医科大学に創るべきであると言えます。その具現化に向け、今まさに国際連携部門が先駆けとして走り出したところですが、世界の英知を福島に集めて、同時にここで育った人材を世界に輩出する、そういう役割を福島県立医科大学が世界に向けて新たに背負った、そう思います。神谷 今回の原発事故は、私たちが進歩させてきた科学技術と社会との関係を改めて問い直すものだったと思います。そういう意味では、人類そのもののあり方が問われるような大きな事故だったと思います。 そういう中で福島県立医科大学にはとりわけ健康に関して大きな責任と期待がかかっておりますが、放射線の健康影響については、被ばく国日本だけの課題ではなく、国際的な大きな課題になっています。 放射線の健康影響については、20世紀に到達した科学の進歩により解明できたことも多くありますが、全てが解明されたというわけではありません。21世紀の大きな課題として残っているものであり、その最大のものが低線量放射線の健康影響の問題です。同時に、放射線の健康影響以外の課題、放射線と社会との関わり方、あるいはエネルギーや環境との関わり方も非常に大きな課題です。このような全人類的な課題が現実の問題となっている中で、まず最優先されるべき課題は着実に県民の健康を守ること、これが本学の一番大きな役割であり使命です。 その次に、このような課題への取り組みを国際的に情報発信し、同時に国際的に貢献していくことが今後求められると思います。そして、この分野での人材を育成し、その人材を世界に輩出する。そうすることによって世界で同じような苦しみを持っている人を支援し、放射線防護や安全管理に貢献していく。このようなことが、福島県立医科大学に求められていると思います。山下 菊地理事長をはじめ、私たち教職員が思い描く、福島県立医科大学に課せられた使命・役割を今後果たしていくための具体的なプロジェクトが、現在、復興事業推進本部を中心に動いていますし、サブタスクフォースという形で分野ごとに基本構想の策定が進められています。私が凄いなと思ったことは、予算の規模もそうですが、オールジャパンでの支援の枠組みが出来つつあることです。そして、本学がそれをしっかり受け止めて最先端の診断・治療を、しかも単に放射線医療関係だけでなく、トータルとして県民の健康を守ろうとの考えでプランニングされていることです。「フクシマの医科大学」として担うことになったもの福島の悲劇を奇跡に

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