FUKUSHIMAいのちの最前線
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562福島県立医科大学の対応 「悲劇から奇跡へ」を合言葉に復興計画が策定された。第一段階は世界の英知を結集することである。本学では以下のごとく人材,知識,技術を国内外から集める受け皿作りを矢継ぎ早に実行した。◦2011年4月:被ばく医療の世界トップである長崎大学・広島大学との大学間協定締結。放射線影響研究機関協議会加盟(構成員:放射線医学総合研究所,京都大学放射線生物研究センター,長崎大学,広島大学,放射線影響研究所,環境科学技術研究所)◦6月:「県民健康管理調査」開始◦8月:長崎大学・山下教授ならびに広島大学・神谷教授を副学長として招聘。ナショナルセンターである放射線医学総合研究所および放射線影響研究所との協定締結◦9月:放射線医学県民健康管理センター設置◦10月:放射線医学関連2講座を本学医学部に新設 さらに,2011年6月の政府復興会議提言および8月の福島県復興ビジョンに基づき,災害医療研修センター,超早期診断・最先端医療拠点形成,医療関連産業育成・雇用創出へ向けて,学内に復興本部会議を立ち上げてその実現に向かっている。福島の大地を踏みしめながら,力強い復興ビジョンを発信し,実行する「大学の知の力」がまさに必要とされている。1.シンポジウム開催 また,この激動の間,震災からちょうど半年の節目の9月11日,12日の両日には,本学構内にて国際専門家会議「放射線と健康リスクー世界の英知を結集して福島を考える」を開催した。本会議は福島第一原発事故による放射線被ばくがもたらす健康影響について総括することを目的とし,国連科学委員会(UNSCEAR),世界保健機関(WHO),国際原子力機関(IAEA)などの国際機関や政府間組織の専門家と,非政府機関である国際放射線防護委員会(ICRP)委員を含む世界的な専門家三十数名を招請した。このシンポジウムで放射性物質が環境中に大量に放出された場合の健康影響を分析評価し,下記のような結論と勧告が導き出された。 〈結論と勧告〉 ⑴ 福島第一原発事故では,住民の避難,屋内退避や食の安全規制は適切に実施された。今日まで,福島第一原発事放による急性放射線障害は発生していない。甲状腺ブロックは,住民に対して必ずしも必要はなかったと考えられる。避難民も含めて,一般住民への直接的な放射線被ばくによる身体的健康影響は,チェルノブイリに比べて限定的で非常に小さいと考えられるが,福島第一原発事故の社会的,精神的,そして経済的な影響は,甚大である。以上の特筆すべき理由から,さまざまな問題について納得のいく合意がなされるために,環境放射能レベルの継続的なモニタリングと評価が必要である。 ⑵ 福島県民へ最大限の支援を提供するために,日本の医療専門家は,健康と放射線に関する最新の情報を入手する必要がある。このために継続した健康モニタリングが必要であり,すでに健康と人口統計学に関して必要な情報収集のための活動が始まっている。全体として調査事業の情報回収率向上を図るためには,組織された地域参加型の事業展開が不可欠と考えられた。 ⑶ 過去60年の長きにわたり,医師や科学者による広島と長崎の被ばく者への医療支援と研究を通じて,日本は世界でも最高の放射線に関する経験や知識を有している。この専門知識は福島第一原発事放図1 降下した放射性物質の月別推移※気象研究所の観測データを基に作成。 11年3,4月は東京都健康安全研究センターの観測から推計。 観測地点は,80年まで東京・高円寺,以降は茨城・つくば市東日本大震災特別報告(福島発)―悲劇から奇跡へ3

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