FUKUSHIMAいのちの最前線
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第5章次世代へ伝えるFUKUSHIMA いのちの最前線557わってくるはずです。つまり、異なる基準や機械で測定されたデータは単純に比較できないのではないか、と。 そういう意味では、ホールボディーカウンターのデータは国や県が一元管理し、長期間フォローするべきだと思いますし、精度管理のための部署を設けるべきでしょう」──こうした調査以外にも、県立医大では放射線医療に関するさまざまな事業を進めているようですね。「個人的には、福島県は県民に対し、世界トップクラスの医療が受けられる体制をつくる責任があると思っています。 一方、人間の免疫機能が放射能汚染のレベルによってどれぐらい差が生じるのか、証明するための動物実験などはすでに行われています。こうした基本的な実験から臨床試験まで幅広く調査を行い、県民の健康管理を進めるための拠点をつくっていこうというのが当大学の考えです。作業部会での議論を経て、拠点化構想はほぼ完成しています。今後手直しを加えながら、あらためて公表したいと思っています」──震災・原発事故により大きなストレスを受けた心のケアも今後必要になると思います。県立医大でも何か支援策を打ち出しているのでしょうか。「地震・津波に対する不安は時間が経てば消えていきますが、放射能汚染が発生したことでむしろ不安は募る一方です。原発事故はいつ収束するのか分からないし、元の生活に戻れるか見通しすら立っていません。そういう点では従来のメンタルヘルスケアとは全く異なる対応が求められると思います。 特に深刻な影響が懸念されるのは相双地域です。同地域には現在、精神科の入院機能がないため、当大学から民間病院に精神科医を2人派遣したほか、当大学の丹羽真一教授がNPO法人『相双に新しい精神科医療保健福祉システムをつくる会』を設立し、精神医療のサポート活動に取り組んでいます。 同法人が相馬市に開設した『相馬広域こころのケアセンターなごみ』には全国から集まった医師ら4人が常駐して診療に当たっており、こうした施設と協力しながら、心のケアを進めていく考えです」──相馬市や南相馬市では医師不足も深刻なようです。県立医大ではどのように医療復興を果たしていくべきだと考えますか。今後の見通しを教えて下さい。「相双地域の病院からの要請に対し、当大学の医師を派遣していますが、現地で必要とされている対策とマッチしていないのではないかと考えています。すなわち、表面的な医師不足ではなく、根本的に医療崩壊が起きているのではないか、と。 特に深刻だと感じているのが人口構成の変化です。原発事故の影響で子どもを持つ家庭や若年層が避難し、高齢者が占める割合が増大しました。今後は介護・医療双方の機能を併せ持つケアミックス型医療機関の整備が必要になるだろうし、介護施設をつくり、医者が巡回・支援するような仕組みも必要でしょう。いずれにしても、相双地域が医療復興を果たすためには、『復旧』を目標にするのではなく、『全く新しい形』を目指すべきだと思いますね」

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