FUKUSHIMAいのちの最前線
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556公立大学法人福島県立医科大学理事長兼学長 菊地 臣一健康管理を進める拠点をつくりトップクラスの医療を提供する 長期間にわたる低線量被曝、食品からの内部被曝など、放射能汚染の影響が懸念される中で、県内医療の中心的役割を担う福島県立医科大学(福島市)に寄せられる期待は大きい。震災・原発事故後を生きる県民の健康を守るため、同大学ではどのような取り組みを行っているのか。同大学の菊地臣一理事長兼学長に話を聞いた。月刊 政経東北 平成24年4月号(㈱東邦出版)「特別インタビュー」掲載──県立医大では、県から委託されて「福島県県民健康管理調査」を実施しています。「かつて人類が経験したことのない『低線量長期被曝』の影響を調査することで、まだ明らかになっていないメカニズムを解明すると同時に、被曝リスクの程度を次世代に伝える意義があり、人類にとって価値のある調査と思っています。 基本調査に関しては回収率の低さ(3月6日現在21.5%)が問題視されているようですが、医療現場で行われる術後経過のアンケート回収率はたいてい1割程度。20%を超えるのはむしろ高いくらいなんです。現在は回収率50%を目標に、担当役員が事業所などを訪問し、協力を呼び掛けています。原発立地地域から遠くなればなるほど回収率が悪くなるなど、問題点も見えてきました。 回収率が低い最大の原因は、調査に協力してもメリットがないことでしょう。例えば、調査協力者の医療費が無料になるシステムなどがあれば、回収率も上昇するのではないかと考えています」──基本調査の低回収率に対し、県民健康管理調査の一環として行われている甲状腺検査の受診率はかなり高いようですね。さらに多くの人が受診できるように検査をスピードアップできないのでしょうか。「甲状腺検査の実施率は67%(3月2日現在)で、それだけ子どもの健康を心配する親が多かったということだと思います。放射線のリスクを正確に把握するためにも極めて重要な検査ですし、今後、数十年にわたり続けていく必要があります。 理想は検査スピードを速め、できるだけ多くの人に受診してもらうことですが、現実には人員が全く足りない状況です。 甲状腺の超音波検査を行う専門家も圧倒的に不足しています。今後は県外でも気軽に検査を受けられるように、放射線・甲状腺の専門家による全国的なネットワークを築き、人材育成に取り組むべきだと思います。 広島・長崎で検査体制が整備されたのは原爆投下から5年後でした。県民健康管理調査を原発事故から5ヵ月でスタートさせたことに対し、世界中から大きな反響をいただいていますが、約200万人を長期間にわたり調査すること自体、例のないことですし、大変な時間と労力がかかることが予想されます。 そうした調査だからこそ世界中の英知を集め、国際的な機関と協力しながら進めていく必要があるでしょうし、国は責任を持って調査を支援し、人類全体の財産としてきちんと次の世代に引き継いでいくべきだと思います」相双の医療復興を支援──内部被曝への関心の高まりを受けて、ホールボディーカウンターを独自で購入し、検査を実施する市町村も現れています。今後、多くの住民の検査が行われると思いますが、課題になるのはどんな点だと考えますか。「ホールボディーカウンター検査に関しては、測定値の信頼性を確保する『精度管理』が最大の課題と言えます。例えば、バックグラウンドが高い場所で測定した数値は、どの程度信頼できるものなのか分かりませんし、移動式と据え置き式でも数値が変

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