FUKUSHIMAいのちの最前線
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第5章次世代へ伝えるFUKUSHIMA いのちの最前線535の報告により各診療部署の機能は確認された。進行中の手術は中止され、全入院患者の安全確認が行われた。人的被害はなく、施設設備の損傷も軽微であった。停電はなかったが、断水となった。貯水タンクには数日の余裕があった。ガソリンを含む物流は1週間停止した。 広域災害における対策本部は、県庁に設置された。県災害対策本部との通信は、固定電話で可能であった。ただちに、県災対本部に、本学から最初は、医学部長をトップとする医師チームを派遣し、本学と県内医療施設との連絡調整を担当させた。このチームは、臨床科教授および講師数名で構成され、県内各地の病院医師と面識もあり、県内病院事情に精通した精鋭である。災害発生急性期の情報混乱と支援ミスマッチを防ぐためには、地域行政と医療機関の緊密な連携が必須の条件である。平時において県医療行政担当者と現場医師の接点は殆ど無い。普段顔の見えない関係では必要な情報把握や問題共有による迅速な対応は望めない。この調整医監と名づけられた精鋭チームの派遣・常駐により、県災害対策本部、医大および県内病院という災害時情報ネットワークが確立された。 震災発生直後の超急性期は、全病院機能を地震・津波による傷病者対応に振り向けた。一般外来および定期手術の休止により、人的資源を全面的にトリアージ及び3次救急に集中した。本学救急科は、全国から駆けつけた災害医療チーム(DMAT:Disaster Medical Assistant Team)の調整をおこなうと同時に、浜通りからのDMAT搬送による災害救急に特化した。全科の協力のもと、数日間で約200名の重症患者を受け入れ加療した。 全学の一致協力体制の構築と維持には何が必要か? 院内病院機能および県内災害状況の情報共有と、本学の地域貢献の使命再確認が必要である。医大災害対策本部は講堂で全学全職種ミーティングを頻回に行った。この全学ミーティングは、①災害および災害対策情報は全て共有する、②推測で発言せず、事実のみ報告する、③現場で発生している問題点はその場で処理する、④非難はしない、支援する、⑤ユーモアを忘れない。の原則を貫いた。 大学人は概ね議論好きだが、迅速を旨とする非常時に、「落とし所の見えない議論」は百害あって一利なしである。対策本部は、その場でできる最善の決断を行う。問題を先送りしてはならない。非常時の決断は拙速を旨とする。一つの問題に対して、選択枝を挙げ、決断し、権限を委譲する。その後現場からの経過報告を受けて、さらに本部ができる支援を行う。キャッチボールと同じで、本部は受け取った球は、その場で投げ返す。抱え込んではいけない。これにより全学の数十の災害対応行動が同時進行で処理可能となった。事務方も含めた大学各部門責任者が一堂に会しているため、平時であれば院内連絡・調整に数日かかる対応がその場で瞬時に出来てしまうことは、ある意味で想定外の事態(!)であった。また、「現時点の最善策」を全員の目で検証できるため、対応策の問題点の発見や各部署間の協力確認もその場で済むスピード感もある。 大地震翌日の3月12日に福島第一原子力発電所の水素爆発がテレビで映しだされ、原子炉が極めて危険な状態にあるとの報道が繰り返された。原発制御状況や放射能拡散情報が一切公表されない中で、浜通り地域からは多くの住民が政府命令・指示で避難を開始し、中通り地域からも多くの住民が県外に自主避難を始めていた。アメリカ政府は福島第一原発から50マイル(80㎞)圏外に退避するよう自国民に勧告した。本学所在地の福島市は、米国の退避勧告圏内に位置する。本学職員にも原発パニックが発生する可能性はあり、一旦職場離脱が始まれば附属病院が総崩れとなり、県医療中核機能が崩壊し、県医療がドミノ式に崩壊する危険をはらんでいた。この事態にどう対処すべきか? 第一に、医療人及び指導者として最善をつくすという大学執行部の「覚悟」を示すことであり、第二に「完全なリスク情報公開」であると当時は考え、今もその考えは変わっていない。 連日3回の全学全職種ミーティングでは、知り得る限りの原発状況を含むすべての情報共有を原則とした。政府からの原発情報は皆無であったが、水素爆発の連続発生など刻々と変化する原発状況に関し、広島大学や長崎大学の放射線専門医師団ができる限りの解説を行った。同時に、原発大事故発生時の全学への即時通知体制と全員の対応を周知徹底した。非常時対応には、「Code Red」という暗号(?)を付けた。大量の放射線物質飛来時の屋内退避、外気遮断、換気停止、ヨード剤服用およびマスク着用などの防護策である。そして、本学基礎系教授自作の放射線レベルリアルタイムモニターで大学敷地内を監視し、大学ホームページに常時公開した。原発パニックの可能性と、大学の対策震災超急性期の対応:全学一致による三次災害医療対応

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