FUKUSHIMAいのちの最前線
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534はじめに 大学が、種々の社会情勢のなかでどの様に機能すべきか、また機能できるかは現代社会の大きなテーマである。本稿では、東日本大震災において本学が果たして来た機能と、今後の福島復興において果たすべき機能を考えてみたい。本学災害対策本部における対応から、福島県復興計画に関わるまで私個人としても多くの教訓を得た。同時に大学のマネジメントおよび社会貢献について考え直す機会ともなった。いま現在進行形で起きていることは、現代の「大学」という組織が、未曽有の大災害が引き起こした地域社会の基盤を揺るがす危機的状況において、国や国民に如何に貢献できるかという壮大な歴史的実験とも言える。本学の基本的背景 福島県は、東北地方と関東地方の中間点にあり、「浜通り」といわれる太平洋沿岸地方、東北新幹線・東北自動車道が整備され福島市・郡山市がある「中通り」地方、そして会津若松市を中心とする「会津」地方の3地方に大きく分かれる。福島第一原子力発電所は浜通りに立地し、県庁所在地・福島市にある福島県立医科大学とは直線距離で57キロに位置する。 本学は福島県唯一の医科大学として、医学部および看護学部を擁し、医学・看護学の教育、研究、臨床を行っている。設立後50年で約3700人の医師を輩出し、福島県全域の基幹病院から中小の病院までの医療ネットワークを構築している。大学附属病院には、全診療科の専門医師が約300名在籍し高度医療に対応している。一日平均入院患者数700人、一日平均外来患者数1600人、年間の全身麻酔手術数は、4500例である。本学の創立は県立であり、設置者は福島県知事であった。先年、法人化され現在に至っている。県行政との太いパイプがあり、東北地方各県に共通する慢性的医師不足に協力して対応するなど平時からの風通しは良い。 医療・看護に特化した大学であり、公立大学法人化後数年を経過し、大学意思決定のスピードは速い。「県民の健康、安全、安心」というコミュニティーユニバーシティとしての大学使命が明確であり、基礎系教官にも医療事情通が多く、教育プログラムも地域医療志向が強い。県内医療の最後の砦という自負を持ち、高い患者紹介率を誇り、高度医療機能に特化している。高度救急センター40床を有し、全県からの緊急対応に強みを持つ。常備したドクターヘリは全県各地に45分以内で到達することができる。 3月11日午後2時46分にマグニチュード9.0の大地震が本学附属病院を襲った。テレビ報道では太平洋沿岸部の津波など大災害が次々と映しだされた。さて、ここで本学は何をどうすべきか?「自身も被災者である支援組織」が、どう機能すべきかという問題である。本学には、高度治療を要する入院患者数百人に対する責任も、県内医療全体の拠点という責任もある。 ただちに病院長室に本学災害対策本部を設置した。本部の任務は二つある。まずは大地震が襲った本学病院機能の維持・運営であり、その上で残された設備とマンパワーをマネジメントし県内災害医療中枢機関として機能することである。院内各部から大学マネジメント 2012.3月号「特集 東日本大震災 大学はその時どう動いた」掲載福島県立医科大学心臓血管外科学講座教授 附属病院副病院長 復興本部会議委員横山 斉*福島県立医科大学:東日本大震災・原発事故のリスクマネジメント、そして復興への展望震災発生直後:震災対応体制の確立*YOKOYAMA Hitoshi◦1983年東北大学医学部卒。2001年より福島県立医科大学心臓血管外科学教授、2006年より同附属病院副病院長兼任。2011年の東日本大震災後より福島医大災害対策本部で、福島県全域の災害医療支援と福島第一原発事故被ばく医療の統括。福島県復興ビジョン検討委員および復興計画検討委員を務める。

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