FUKUSHIMAいのちの最前線
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420 古来よりナマズが地震を予知するという話がある。その真偽は別として,阪神・淡路大震災(1995年1月17日)の際には,飼い犬が異常に鳴いたり,猫が怯えたりいなくなったりしたという事例が知られている。最近でもワシントンの国立動物園で一部のオランウータンが地震前に異常行動を見せたという報道があった(朝日新聞2011.8.28付掲載記事)。米紙ワシントン・ポストは「地震前の動物の本能」と題する記事を8月25日付の1面で報じた。飼育員の証言から地震の5~10秒前に高い所に駆け登ったり叫び声を上げたりしたとしている。動物の異常行動は,フラミンゴやゾウ,ヘビなどでも見られ,動物園のホームページでも紹介されている。この地震は米東部を67年ぶりに襲った8月23日のマグニチュード5.8の地震である。 周知のように,2011年3月11日14時46分頃発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)により各地に大災害をもたらした(東日本大震災)。その後,福島市内では数ケ月間,遠方から不気味な地鳴りが近づく余震を何度となく体験した。4月7日(23:32)には宮城県沖を震源とするM7.4の余震(福島市内で震度5弱)が発生した。その後震度4程度の地震が数回あったので,テレメトリー法を活用して地震によるマウスの体温および自発活動量への影響について観察・検討した。 実験には生後10~16週齢のC57BL/6J系マウス(メス6匹)とICR系マウス(メス2匹)を用いた。 木質系床敷(㈱イワクラ製“とこじき”)を入れたマウス用プラスチックケージ(日本エデストロム製,“M-7”)で個別飼育した。体温用送信器(DSI製,TA10TA-F10またはTA10TA-F20)は,イソフルレン吸入麻酔下にて無菌的外科処置により腹腔内に予め埋め込んでおいた。テレメトリー測定中に遭遇した地震は延べ6事例であった(表1)。地震情報は気象庁発表のものであり,震度は福島市内または近隣における測定値である。体温および自発活動量は,地震発生前後のそれぞれ1時間における取得データの平均値を求めて比較し,さらに,1時間ごとの移動平均による明暗リズムについて検討した。 図1は,地震発生(2011.04.07.23:32頃)の2時間前から発生後2時間の体温と自発活動の記録結果の1例である。マウスの体温は地震発生前後に顕著に変化するものと,変化が明らかでないものがみられた。地震の前1時間~30分前後に自発活動量(図中の実線のグラフ)が減少し,体温(図中の●印のグラフ)が低下するマウスが多かった。体温の明暗リズムについても地震によると思われる変動が観察されたものもあった。 地鳴りを伴う地震の際には発表者自宅近隣の飼い犬が決まって激しく吠えていたことなども考え合わせ,マウスの体温の変動は地震による驚愕行動もしくは怯えによる自発活動量の変化に伴うものであろうと推測している。怯え時にはマウスは動きが乏しくなり体温も低下する。そして,地震後の驚愕行動として自発活動量の増加が継続し体温が高く維持されるものと考えられる。福島市内でも本震後約1ヶ実験動物と環境 第39号 vol.20(1)〈2012年4月1日発行〉(日本実験動物環境研究会)掲載片平 清昭1),若井 淳1),関口 美穂2)1)福島県立医科大学医学部附属実験動物研究施設,2)福島県立医科大学整形外科学講座地震前後におけるマウスの体温と自発活動量の観察2.実験方法1.はじめに3.結果および考察表1. 測定対象とした地震年月日時刻規模震度2011.04.0723:32M7.45弱2011.04.1117:16M7.142011.07.3103:53M6.44−5弱2011.08.1203:22M6.042011.08.1914:36M6.842011.10.1011:45M5.63~4

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