FUKUSHIMAいのちの最前線
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416 平成23年3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震、福島県立医科大学(以下福島医大と略)がある福島市の震度は5強であった。福島医大の実験動物研究施設は鉄筋コンクリート構造の4階建てで1階から3階までを飼育室や実験室として供用している。4階は機械室と倉庫であり普段は人の出入りは少ない。幸いにも震災による人的被害がなく、建物にも大きな被害がなかった。今年1月に消防法の規定に基づき大学における防火・防災管理業務について定めた消防計画を見直したばかりであり、地震直後にはその防災対策行動マニュアルにそって対応した。動物施設における災害対策の対応方法の原則として以下の3点が挙げられている。①人命の安全:いかなる場合でも施設関係者(職員、実験者、保守管理者、来訪者等)や災害時の救援活動者の安全を最優先する。②動物実験の継続:人命の安全が確保された次の段階として、できる限りの手段を講じて飼育環境の保持と動物飼育の継続に努める。ただし、人や他の動物への感染の恐れのあるものについてはただちに処分する。③動物福祉への配慮:飼育や実験の継続が困難となった場合や、実験動物に著しい苦痛がおよぶと予測される場合には所定の方法により動物を速やかに処分する。 今回の災害発生直後の対応とその後の施設での動物飼育の管理方法、震災を経験して今後の災害への備えを検討した。1.地震発生直後は避難、危険な装置の停止、飼育室・実験室の状況点検と災害マニュアルどおりに対応した。飼育室では落下防止角棒を使用していなかった一部のステンレス架台からマウスケージ数個が落下したが、逸走マウスは全て捕獲した。基礎系の実験者も飼育室の状況確認におとずれ、とても助けられた。また、飼育器材の確認をしたところ飼料は1ケ月相当量、プラ手や帽子等の消耗器材も2ケ月間分の備蓄があった。附属病院を除いて給水が制限されたため職員全員で約3時間を費やして動物用飲用水を確保した。結局断水は8日間におよび、飲用水確保の重要性を強く認識した。2.停電はまぬがれたがガス、蒸気、上水が停止した。また、熱源停止により空調機も運転不能となった。このようにライフライン機能が著しく低下したため附属病院を優先することとされ医学部職員は自宅待機とされた。上水が復活するまでの8日間、実験動物施設は最小限の職員(教職員2名と飼育委託要員2名)が出勤し、飼育管理は休日に準じた対応を行った。温度管理と換気不可能とケージ交換ができないことに加え、余震が続き一部の飼育室で給水瓶から水が漏れてアンモニア濃度が上昇し飼育環境の悪化が心配された。地震翌日に施設の被害状況の説明と動物飼育の維持が可能であることを実験者にメールで知らせた。その後も現状と今後の見通しをきめ細かく連絡した。3.上水復帰3月18日17時、滅菌作業可能3月23日8時30分と徐々に施設の機能が改善した。しかし3月末まで空調は復帰せず飼育室の室圧、温度、湿度の制御ができなかったため、マウス・ラットのSPF水準の維持が懸念された。4月と5月に微生物モニタリング検査を実施しSPFが維持されていることを確認してやっと安堵した。このような対応の結果、動物の処分のほとんどは実験が終了したために処分したものであり、飼育ケージで16%であった。4.今後の災害時に向け、ケージ落下防止策の工夫、動物用飲用水の確保等を再検討し順次実行している。災害を体験し施設や設備の特徴を熟知し、弱点を補うような対策を検討している。日本実験動物技術者協会 平成23年度奥羽・東北支部合同勉強会プログラム「シンポジウム5」発表福島県立医科大学医学部附属実験動物研究施設 遊佐 寿恵福島医大実験動物研究施設における被災状況と現場対応

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