FUKUSHIMAいのちの最前線
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406東日本大震災と福島第一原子力発電所事故がペインクリニックの患者に与えた影響加療した。 当院に一時的にでも搬送された患者の多くが,簡単ではあるが紹介状を持参していた。緊急の避難で十分な時間もなく,カルテも地震で散乱しているような中で患者のために紹介状を作成された医師には頭が下がる思いであった。紹介状がなければ,名前も疾患もわからない患者の対応を強いられ,現場はさらに困難したことが予想された。 3)避難住民の医療支援 退避圏内の入院患者の移送が一段落し,本院の水道も復旧した頃から,避難所における巡回診療を開始した。すでに,全国の医師会や日本赤十字社などから多くの医師が支援に入って来られたため,本院ではこれらの医師と連携を取りながら,不足がちな小児科・耳鼻科・眼科診療や感染制御,心のケア,超音波診断装置を駆使した深部静脈血栓症や心疾患のスクリーニングを全県的に展開した。 4)震災後のペインクリニック通院患者 震災後8日間は救急体制を取っていたため,ペインクリニック外来は閉鎖していた。外来再開後もガソリン不足の問題もあり,約1ヵ月は外来での神経ブロックはほとんど行っていなかった。しかし,病院受診ができない期間に神経ブロックを行わなかったからといって,痛みが悪化した患者はいなかった。 5)避難住民の中のペインクリニック患者 避難住民の中には,当院ペインクリニック外来に通院している患者も存在した。震災以後,通院が途絶えてしまった方もいるが,避難所から通院を継続している患者もいる。 震災当初問題となったのは,オピオイドの処方であった。避難区域に指定された住民の中には避難所を数回移動することもあった。避難所の周囲で通院できる病院がどこにあるかもわからない患者もいた。紹介状を持たせようにも,慢性痛に対しオピオイドを処方してくれる医師が近くに存在するか,フェンタニル(貼付剤)のような,eラーニングを受けていないと処方できない場合どうすればよいか等の不安があった。今回われわれがとった対応は,患者自身で避難先の近くでオピオイドを処方してもらえる病院が見つけられない時にはペインクリニック外来に電話連絡していただき,こちらで病院を探し連絡をするというものだった。しかし実際は,当院に通院が可能な範囲の避難所への移動となったため,他院で処方を依頼することはなかったが,フェンタニル(貼付剤)のようなeラーニングの受講が必要な薬を処方している患者の対応はやや難しい面があると感じた。今後は,このような制限を解除するか,処方できる医師がどこにいるのかを誰でも確認できるようにすることが必要であろう。 もう一つのオピオイドに関する問題は,モルヒネ塩酸塩水和物(末)を使用している患者についての問題であった。錠剤に比べて安価なため,モルヒネ塩酸塩水和物(末)を使用している患者を錠剤に変更することは経済的な負担を負わせることになり容易にはできない。また,モルヒネ塩酸塩水和物(末)は調剤に手間がかかるせいか処方している薬局は少なく,モルヒネ塩酸塩水和物(末)を服用している患者の多くが大学病院近くの調剤薬局で処方されていた。このような患者は自宅近くにかかりつけの調剤薬局がないため,対応に苦慮した。一時的に錠剤に切り替えて近くの調剤薬局で処方していただくよ図4 避難患者の収容臨時の収容施設に次々と患者が収容された

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