FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線395大学病院の立場から医師派遣要請の可能性がある.そのような場合,関連病院群での対応可能状況を把握し,連携を取って効率よく受け入れや派遣を行う必要がある.その際,大学病院のような高次機能病院ではなるべく軽症者の手術には着手しないなどの配慮も必要である. また,被災地や関連施設の状況を把握し,連携を取るには,通信手段の整備も重要である.藤岡6)は,新潟県中越地震では,道路の被害状況が判明し,通過可能なルートが示されたり,防災ヘリコプターが動員され,機能するようになるのに3日必要であったと述べている.今回の震災では,ドクターヘリや自衛隊・消防による連絡・連携が比較的早期から機能したが,通信網は機能せず,十分な状況把握が困難であった.災害時の混雑にも影響を受けにくい衛星回線電話網などの整備が望まれる.被災地でのニーズと支援側のマンパワーも含めた装備がお互いに理解できれば,より適切で迅速な対応がとれるものと思われる. 3 防災訓練 通常病院全体では防災訓練が行われていると思われるが,福本ら7)の報告によると,手術室独自で行っている施設は多くない.また,花木ら8)や伊藤ら9)によると,災害を想定した定期的な避難訓練は,災害に対する意識の向上につながる.本院では,病院全体の訓練とは別に,毎年1回手術室で災害避難訓練を行っていた.また,新潟県中越沖地震の教訓をもとに,今回の震災のおよそ半年前にDMATの参集訓練を行った.それらのことが今回の震災で,迅速に対応できた一因ではないかと思われる.マニュアル作成と日常の訓練の重要性を再認識させられた. 今回の震災と原発事故に対する本院の対応をまとめると図③のようになる.今回の震災は,地震の規模は大きかったが,病院の建物などの耐震設計が効果的であったようで,医療ガス,電源供給などに問題は生じなかった.したがって,手術,集中治療中患者にも震災による直接の障害はなかったが,手術は中止し,後日再手術を行った.また,巨大津波の被害が甚大であったためか,救急搬送された外傷・救急患者は少なく,緊急手術も予想より少なかった.原発事故に関しては,被ばく傷病者はあったが,高度の被ばく者で手術や集中治療を必要とする患者は現在のところないが,発生に備えた準備とシミュレーションを行っている.また,医療ガスや院内環境の放射線汚染もごく軽度であり,問題となるレベルではなかった. 今後,今回の経験を踏まえて,院内体制はもちろんのこと,県内の災害時医療体制の整備,災害医療の教育,研修体制を整備する必要がある. 震災に際し,多くの方々から人的あるいは物資支援を頂きました.この場をお借りして感謝申し上げます.文 献震災発生1週間~2週間~退避患者対応急性期避難民対応慢性期いわき相双地区14病院患者搬送対象者 約1,300名搬送中継トリアジー対象者 175名(重症患者 125名は入院加療)広域医療緊急支援高度医療緊急支援チーム地域・家庭医療チーム外来,定期手術休止全面救急重症対応震災患者受入 約1,000名災害医療対応超急性期高度被ばく者12名除染、3名入院被災者放射線サーベイ約500名原発事故対応図③ 福島県立医科大学附属病院の震災対応医療活動.おわりに1)平成22年度病院年報 福島県立医科大学附属病院ホームページhttp.//www.fmu.ac.Jp/byoin/22tokei/22nenpo_all.pdf2)地震災害情報 福島県ホームページhttp://wwwcms.pref.fukushima.Jp./pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=249143)堀田哲夫:手術医療の実践ガイドライン 第12章

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