FUKUSHIMAいのちの最前線
400/608

394麻酔科医が広域災害に果たす役割ちな小児科・耳鼻科・眼科診療や感染制御,心のケア,超音波診断装置を駆使した深部静脈血栓症や心疾患のスクリーニングを全県的に展開した.これには,ヨルダンやタイからの国際的な援助もいただいた. 4 病院環境の放射線汚染 原発事故後,本院でも環境放射線量が上昇し,独自の計測値も7μSV/hrに達した4). 室内の空間線量率を測定したところ,集中治療部では0.1μSv/hr(同時期の外気は最大4.5μSv/hr)前後であった.圧縮空気を使用しているため,その供給ガスを測定したが,室内気と同様0.1~0.2μSv/hrであった.外気中の放射性物質がどこかに蓄積している可能性があるため,空調機械室などを精査したところ,機械室の空間線量率は0.2~0.4μSv/hrであり,病室(当時は<0.1μSv/hr)に比べて高く,空気取り込み口のフィルターは4~7μSv/hrであった.したがって,外気中の放射性物質はフィルターで捕捉され,病室や患者の吸入気にはほとんど混入していないものと考えられた. 1 院内の災害対策 今回の震災は,地震そのものによる被害は阪神・淡路大震災ほどではなく,津波による被害が大きかった.その経験から,麻酔科医の役割としては,①災害発生時の患者安全確保体制,②医療ガスなどのインフラ,③患者搬送,収容設備,④医薬品・食糧などの備蓄などの整備がある. 病院そのものは耐震基準をクリアしてれば倒壊する可能性は低いと思われるが,手術部内でも,物品の転倒,転落などから患者,職員を守る必要がある.倒れる可能性のある棚や手術器械は十分な補強をし,切創や裂創回避のため,ガラス製のボトルは極力廃止し,薬品棚は戸が閉まるものにすべきである.麻酔器や内視鏡のラックなどは転倒や床上を暴れまわる可能性があるため固定が必要である5).キャスタなども車輪をロックする.また,地震発生時には,まず無影灯や顕微鏡など,患者の上にあるものを周囲に逃がす必要がある. 麻酔科医として酸素供給はまさに生命線であり,十分な備蓄に心がけなければならない.液体酸素貯量は満量の2/3が10日分で,予備供給が1日分以上とされている.本院では液体酸素の貯量に問題はなかったが,予備供給量が不足していた.また,今回の震災では供給側の生産工場なども一部損壊したようであるが,懸命の努力によって被災地への供給が滞ることはなかった. 断水時の手術については,貯水時間の長期化で手洗いや手術器具の洗浄に悪影響が出る可能性もあり,ウォッシャー・ディスインフェクターも使用できなくなるので,器械洗浄が不十分な水洗いとなり,感染防止の面からは好ましくない.断水時には,予定手術は制限せざるを得ない.本院では,水供給の確保が急務であり,井戸の設置や調整池,浄水装置の設置などが考えられる. 本院は住宅地とは別の系統で電源供給を受けていたため,今回は停電しなかったが,自家発電とそのための燃料の備蓄は必要である.院内の自家発電装置には電力供給量および時間に限界があるため,なるべく短時間のうちに手術操作を中止する必要がある.開心術など,途中で操作を中止できない手術が行われている場合はそちらへの電力供給を優先する.また,空調からの層流が停止し,浮遊塵埃が増加するため,ドアの開閉を極力抑え,入室者を最小限にするなど乱流防止が重要となる.また,創部の洗浄を頻回に行うことが望ましい.停電対策では,エレベーターの停止に備えて,患者や給食を搬送する手段も考慮しておく必要がある.本院でも余震によるエレベーターの停止が給食配膳時に重なり,職員総出でバケツリレーのように階段を使用して配膳を行ったことがある.患者,特に手術患者や集中治療中の患者は,階段を使っての搬送は困難である.本院は,手術部に十分な回復室がなく,同じフロアーに集中治療室があったため,患者を移送したが,手術患者は回復室や手術室でそのままケアした方がよいかもしれない.さらに,電源喪失時の対策として,電子カルテのサーバを病院間で持ち合うことなども提唱されている. 医薬品,患者用の食糧の備蓄はもちろんであるが,職員用の食糧にも配慮する必要がある.流通機能が麻痺すれば,職員も容易に調達できるものでない.また,医療従事者の被災,交通インフラ破壊に備えて,職員の滞在場所の確保や職員数減少時の医療体制整備も必要である. 2 広域災害における大学病院の麻酔科医 前述のように今回の震災では,津波による被害が甚大で,緊急手術や集中治療を必要とする患者はそれほど多くなかった.また,本院の関連施設でも同様の状況であったため,震災直後から急性期には,麻酔科医の派遣や物資供給の要望はなかった.しかし,地震災害では,災害拠点病院となっている大学病院に,被災地からの膨大な手術必要患者の搬送や3.今後の課題

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です