FUKUSHIMAいのちの最前線
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392麻酔科医が広域災害に果たす役割入院患者は642名であった.発災時どれだけの外来患者が院内に残っていたかは明らかではないが,外来患者は一旦病院の正面玄関にあるロータリーに避難させた.無事を確認したのち,頻繁に強い余震が続くため,速やかに帰宅させた.入院患者は余震が続くものの移動が困難な患者も多いため,手術中の患者を除いて,一旦それぞれの入院病室に戻らせて,無事を確認した.外来やリハビリテーション部門(1~2階)に出ていた患者は,エレベーターが停止した(震度5以上で自動停止し,再稼働には安全点検を必要とする)ため,担架で上層階に担ぎ上げる必要があった.また,心臓カテーテル検査(放射線部門は1階にある)を終了してエレベーターで移動中に自動停止したため,本来の病棟である10階ではなく2階に降りざるを得なかった患者がおり,上層階に上げることが困難と判断されたため,同じ階でモニタリング機器が整備されている一類感染症施設に収容した. これらの初動は,各部門の責任者の判断で行われ,看護部管理室に各部門の師長を通じてそれぞれの状況が報告された.同時に,大学理事長のもとに災害対策本部が病院長室に設置され,病院部門の情報を集約するとともに,指揮命令が発せられた. 2 手術中患者,集中治療中患者への対応 発災当時,本院の手術部には局所麻酔の患者も含めて9名の患者が入室していた.揺れが大きかったため,手術を中断し,無影灯を術野から外し,天井から多くの塵やほこりが落ちてきたため,術野や器械台にドレープをかけた.避難経路の確保のために,手術室の入り口のドアと各部屋のドアは開放した.空調機能は停止していたが,電気系統,医療ガスの供給に問題はなかった.また,電子カルテ用ディスプレイの一部は落下したが,生体情報モニターや麻酔器,電気メス類の機器に転倒,落下はなかった.その後,麻酔科部長のもとに指揮命令を統一し,移動に備えて薬剤とストレッチャー,バッグバルブマスク,循環作動薬,鎮静薬を部屋ごとに準備した.緊急の避難は行わなかったが,余震が頻回であったため,症例ごとに手術続行の是非を検討した.発災40分後の15時30分頃,それぞれの手術は中断できるところで終了するよう指示し,同じ階にある集中治療部に搬送した.発災後2時間の16時42分までに全患者の手術部からの退出が完了した. 集中治療部には当時6名の患者が入室していたが,電気,医療ガスの供給に問題がなかったため,通常の診療を継続することができた.さらに,1ブースに2名の患者を収容するなどして,全身麻酔後の手術終了患者を収容した.それらの患者は,翌日以降,人工呼吸器離脱後に一般病棟へ帰室させた. 3 救急体制 院内では,病院玄関の受け付けホールおよび隣接する看護学部の実習室に収容ベッドなどを準備し,救命救急センターに隣接する臨床講義棟前のホワイエでトリアージを行い,一次は整形外科外来,二次は内科総合外来,三次は救命救急センターで診療する体制を敷いた. 発災当日から35チーム,約180名の災害派遣援助チーム(Disaster Medical Assistance Team :DMAT)に全国から参集していただき,本院の医師(研修医を含む),学生ボランティアとともに診療に当たっていただいたが,3日間で来院した救急患者は168名で,入院を要する重症患者は30名であった. 手術部では,5室の手術室を準備し,それに対応できるだけの麻酔科医5名,手術部のスタッフ6名,臨床工学技士2名が24時間体制で待機したが,震災後10日間に行われた手術は,骨折整復や帝王切開など25症例であった. 4 ライフラインと復旧 本院のライフラインに関して,電気,ガスには問題はなかったが,水道が8日間停止した.貯水槽の容量は700トンであるが,通常の診療状態でほぼ1日分相当しかない.翌日から節水に努め,通常の外来診療や定時手術も中止し,入院患者もできるだけ退院していただいて通常の7割程度にし,各方面から1日100トン余りの給水をいただいたが,1週間目にはほぼ貯水量が底をつく状態であった. 医療ガスに関して,酸素は定温式超低温液化酸素貯蔵装置から供給されており,その容量は8,600㎥で,平日通常使用量約600㎥の14日分以上である.通常は1週間に1回補充されており,予備ボンベ(7,000L×72本で453㎥)が0.75日分あった.震災当日,液体酸素は約10日分の残量があり,地震による損壊もなく,その後の供給も通常通りに行われた.空気は圧縮空気を使用しているため,供給に問題はなかったが,後述する放射線汚染が懸念された.小型酸素ボンベやその他の医療ガスの供給にも問題は生じなかった. 患者用食糧は3日分,医薬品や検査試薬などは7日分程度の備蓄があった.診療制限を行ったこともあり,食糧,医薬品や医療ガスは不足をきたすことはなかったが,検査試薬は生産工場の被災などによって不足気味であった.また,断水のため,ボトル飲料水で炊飯を行い,食器にラップを敷いて洗浄

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