FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線383原子力発電所事故後の福島県における精神科新入院の状況(20.3%),F4(神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害)が8人(10.8%),その他が3人(4.1%)であった。 入院形態は任意入院が41人(55.4%),医療保護入院が30人(40.5%),措置入院が3人(4.1%)であった。震災から入院までの日数は図5に示す通りである。 福島県内のすべての入院患者が,本調査に包含されているわけではないため,平常時の入院患者調査と単純比較することはできない。さらに,本調査は予備的なものであり,厳密な統計学的処理を行うべく統制されたものではなく,単に原発事故を含む震災後の新入院患者の動向,傾向をみるに留まったデータであり,詳細な考察は困難である。しかしながら,原発事故を含む大災害後の精神科新入院患者の調査はこれまでに例がなく,今後の調査の基礎データとして重要と考える。 本調査で判明した原発事故を含む大災害後の精神科新入院患者の特徴は,①入院時診断で多かった病名は統合失調症圏(F2)が33.1%,気分障害圏(F3)が23.8%であり,大災害後の精神障害として注目される外傷後ストレス障害を含むF4(神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害)については7.4%と比較的少なかったこと,②入院時状態像が躁状態であった患者は全入院患者の11.6%であり,高率であったこと,③原発事故による放射線被ばくへの恐れが入院と関連があるとされた患者が全入院患者の12.1%であったことである。外傷後ストレス障害については,現在震災後における福島県内の精神科外来統計を調査中であり,そのデータと合わせて考察するため,本稿では割愛する。1.震災後の躁状態での入院が増加した 入院時状態像が躁状態であった患者は71名(入院全体の11.6%)であった。気分障害の症状変化には季節性があることを考慮すると,今回のデータと比較するためには通常時の同期間における躁状態での精神科新入院のデータを必要とするが,時期を合わせた既報のデータはない。そのため,平成19年から平成22年の3月12日~5月11日における福島県立医科大学附属病院心身医療科での新入院データと比較したい。同時期の4年間の新入院は112人であり,躁状態での入院は4人(3.6%)であった。今回のデータでは躁状態での入院が11.6%と約3倍であり,震災後に躁状態での入院が多い傾向にあったといえる。また,平成21年度の福島県内の医療保護入院疾病別入院届出数の統計を福島県障がい福祉課の了解を得て示す。躁状態,うつ状態などすべてのF3疾患の医療保護入院の割合は全体の14.5%である。医療保護入院のデータであり単純比較はできないが,通常時の入院がうつ状態,躁状態合わせて14.5%であるのに対し,震災後は躁状態のみで入院全体の11.6%であったということは,うつ状態の方が躁状態よりも頻度ははるかに高いことを考慮すれば通常時より高率であるといえる。 大災害後に躁状態が増加することについてはいくつかの既報がある。山口らは阪神淡路大震災後の入院症例について報告しており,双極性障害患者の躁病相が再発し入院した症例が多数あったことを報告している12)。また,新福は阪神淡路大震災後に大多数の被災者が饒舌で陽気となっていたこと,抑うつ状態の患者が躁状態になった例があることを報告している10)。双極性障害患者が壊滅的災害後に予期しない病状悪化があることは以前より海外でも報告があり1),病状が長年安定していたとしても病状の悪化に細心の注意が必要である。また,少しでも病状悪化がある際には早めに気分安定薬を増量することや入院を考慮する必要があるかもしれない。2.放射線被ばくへの恐れも精神科入院の一因となった可能性がある 調査期間内に入院した患者のうち,原発事故による放射線被ばくへの恐れが入院と関連があるとされた患者は74人(12.1%),関連があるかもしれないとされた患者は75人(12.3%)であり,合わせて全体の24.4%であった。この調査項目は入院に至る病態へ放射線への恐れが一因としてあったか否かという点を主治医の主観により評価している。そのため,客観性が十分にあるとはいえないため,そのことを理解したうえでの考察が必要である。 福島県での放射線測定値は各地域により大きく異なる。図4に示す通り,入院患者のうち放射線被ばくへの恐れが入院の一因になっていた患者の割合図5 放射線被ばくへの恐れが入院に関連していたと される患者の震災から入院までの日数4 考察

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