FUKUSHIMAいのちの最前線
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346行かなければならない状況になっています.これは地域医療の問題も含んでおり複雑だと思います.棟方 喘息患者さんの状態はどうでしたか.三浦 喘息は,初期には多かったのですが,重症例はあまりありませんでした.震災の1ヵ月後に当院,森川小児科アレルギー科クリニック,国立病院機構仙台医療センターの先生とアンケートを実施したのですが,これらの患者さんでは沿岸部を除いてほとんど悪化していませんでした.薬がなくなって困ったとの回答は14%で,具体的にはICS,ロイコトリエン受容体桔抗薬などです.専門医が,特にICSなどで適切に長期管理していて薬が間に合った患者さんでは,喘息が増悪することは少なかったという印象をもっています.棟方 ありがとうございました.では,福島県の状況についてご説明します. 福島第一原子力発電所の事故については,われわれは当初から正確な情報を得ていました.そのため,職員の動揺はかなり大きかったですが,ほとんどの職員が病院にとどまり災害医療に対応してくれたことは素晴らしいなと思います.原発の影響で何万もの人が避難することになりましたが,津波よりは時間的な余裕があり,多くの方が薬やお薬手帳などを携帯していました. 当院には浪江町や飯舘村など相双地区の患者さんが多く,震災後の様子を伺うと,薬局にこれまでの処方の情報があれば引き続き処方を受けられるシステムがうまく機能し,またDMATからもある程度配付していただいたので,9割の患者さんはICSを人手できたようです.薬がなかった患者さんでは6割が増悪してしまいましたが,入手できた患者さんの増悪率は17〜18%にとどまっています.これは2010年春のデータと比べてもそれほど大きな違いがなく,やはりICSが継続できていればコントロールが比較的良く保たれることがわかります. 放射能に関する不安や,震災に起因する心配を抱えた方はきわめて多く,不安が強い患者さんで喘息が悪化する傾向も出ています.2011年開催の第61回日本アレルギー学会の一般演題でもお話しさせていただきましたが,今後はICSのような長期管理に欠かせない薬剤を確実に患者さんに届ける方法と,心のケアをどうするかについて考えることが大事だと思います.棟方 すでにいくつか出ていますが,今後の対策に関してさらにお話しいただけますか.山内 まず,被災した特別養護老人ホームの入居者を受け入れる長期療養型の施設が不足しています.独居の高齢者に対しては,新しい環境に慣れていませんから,ケアマネジャーなど介護関係者が仮設住宅単位で訪問して健康状態をチェックするなど,2年間ぐらいは少しケアを手厚くして,積極的に関わるのがよいのではないでしょうか.棟方 大事なことですね.医療についてはDMATと,福島県では放射線医学総合研究所・広島大学・長崎大学の緊急被ばく医療支援チームREMAT(Ra­diation Emergency Medical Assistance Team)も入り多くの支援があったのですが,介護の領域は,全く足りていませんでした.在宅介護をサポートしてくださっていた保健師さんたちの手が足りなくて本当に困りました.保健師さんの大切さを実感しましたね.山内 岩手県の場合は医療局というのがあり,そこで各県立病院が連携していたので,沿岸部の情報などがいろいろ入ってきました.棟方 三浦先生はいかがですか.福島県における喘息患者と増悪の関係今後の災害対策として必要なことは図2 災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット東日本大震災特別鼎談「震災と喘息」

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