FUKUSHIMAいのちの最前線
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342福島県立医科大学における東日本大震災後の活動し内科系各科がPHS当番の指示により入院患者を受け入れるシステムは,大きな混乱もなくうまく機能した.また,震災直後から1日3回(9時,15時,21時)に各診療科代表者と各病棟師長,および医事課,施設管理課など病院運営に携わる事務方との全体会議が開かれ,毎回問題点と対策が議論され,上記のような入院受入のシステムも,この中で生まれ,状況が変わる都度この会議でbrush upされていったことも,震災後早い時期から大きな混乱もなく大人数の転院や救急患者に対応できた理由と考えられる. このような緊急の患者受入に対応するため,各科に入院中の重症患者,特に人工呼吸器管理や透析が必要な患者については,病院としての対応に加え,各科も個別に対応し他県施設への転院を進めた.当科では,地震の発生と同時に地震対応医療のために全国ネットで立ち上がったメーリングリスト(代表:仙谷由人,医師顧問:高久史麿)と,日本神経学会の震災対応メーリングリストを介して,自衛隊ヘリコプターにより2名の人工呼吸器装着患者を東京大学神経内科に転院した.原発避難区域より転院した慢性期の患者については,埼玉県総合リハビリテーションセンター神経内科へ転院した.この時には,平常時の人のつながりが非常時を助けることを実感した.さらに,当院と県内医療機関の連携により,竹田綜合病院にも慢性期の患者を転院した. 今回の震災では地震・津波のみならず,福島第一原子力発電所の事故も発生し,これに関連する当院での対応についても述べておく.福島第一原子力発電所より20㎞圏内からの受診者については,REMAT(Radiation Emergency Medical Assis­tance Team)および自衛隊と連携し放射線スクリーニングを行った.また,地震翌日の3月12日に水素爆発が発生し,さらなる爆発的事象が発生した場合,当院周辺地域への放射線汚染の可能性も危惧された.このため当院周辺での放射線量が100μSv/hを超す場合,院内にコードレッドを発令し,①窓を閉める,②換気扇を止める,③不要な外出を避けるという対応を取ることが申し送られた.この際に議論となったのは,圧搾空気の配管は外気を取り入れており,これを用いた人工呼吸器では外気の放射線の影響が危惧されるため,室内の空気を用いるコンプレッサー付きの人工呼吸器の使用が検討された.結果的には現在までコードレッドが発令される事態には至っていない. ここで少し市民生活にも触れておく.震災直後から福島市ではガソリンの供給が止まったが,この頃になると車のタンクに残っていたガソリンも乏しくなり,職員は乗り合いで通勤するようになった.また,市内の断水は依然続いており,入浴・水洗トイレが使用できないことが辛かった.さらに郵便・宅配便も停止し,コンビニエンスストアも閉店したため,普段いつでも入手できた食料や様々な生活用品が入手できなくなった.この状態は10日間ほど続いたが,3月20日頃から水道が通るようになり,流通の問題も徐々に改善された.この時には,地下水の重要性を実感した.地下水が通っている温泉,食堂などは地震直後も営業を続けており,かなり混雑していた.我々も病院に釘付けとなり,一週間経過した頃,医局員が連れ立って車に乗り,温泉で風呂に入ってきたことがあった.また,ガソリンは日頃からなるべく空っぽにしないで,半分くらいになったら満タンにしておくことを心がけるようになった. 3月18日に当院への水道の供給が再開され,透析や生化学検査が可能となり,3月22日から内科系外来が再開され,3月28日から通常の外来診療が再開した.この頃になると避難区域からの転院は収束しつつあり,診療の中心は避難所の巡回診療に移っていった.当初より心身医療科でPTSD等の診療のため避難所を巡回診療していたが,さらに地域・家庭医療学のチームが原発から20㎞から30㎞の屋内退避地域を,心臓血管外科・循環器科が深部静脈血栓症のスクリーニングを,小児科・眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科のチームが各避難所で巡回診療を行っている.我々の科は,その科の特殊性から,神経内科疾患のコンサルトで,避難所などで疑わしい患者が発生したときの電話でのコンサルト,重症患者の受入を行った.ちなみに,避難所で発生し大学病院で受け入れた疾患としては,脳血管障害・細菌性髄膜脳炎・筋無力症の再発例・多発性硬化症の再燃例・人工呼吸器が付いている神経難病等が有り,ストレスで悪化する神経疾患を再認識した. 未曾有の大災害に遭遇し,市民生活は一変し地域医療も混乱したが,今回の経験から次の教訓が浮かび上がった.一つは窓口の一本化である.前述の会議の際に医療からライフラインの確保,施設管理まで含めて問題点をあぶり出し,その都度対応する部署の連絡先を一本化して明示した.これにより刻一刻と変化する状況でも各部署が適切に対応でき,情報の錯綜による混乱も少なかった.もう一点は各自3.慢性期(10日目以降)4.おわりに

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