FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線339原発事故が地域にもたらしたもの~福島の大震災の特異性~した企業も多く,支援物資はもとより,ガソリン・灯油・食糧・医療材料等の配送も停止したからである.急性期,この圏内に該当する南相馬市には医療チームやボランティアもほとんど入らなかった.このため,自衛隊が全戸を見回り自力移動困難者を発見し搬送を行った.しかし,約500名の在宅残留患者(移動困難・不同意)があり,福島医大と長崎大・医師会チーム,自衛隊衛生班が協力して在宅診療を行った.5月末まで延べ1,500人を診療し,5名を要入院(衰弱,肺炎,褥瘡・パーキンソン病・統合失調症の悪化)と判断し対応した. 4月中旬に南相馬市の在宅自力退避困難高齢者164人を対象に行われた緊急時避難意思の確認調査では『避難に応じる』が68.3%,『避難に応じたくない』26.8%,『態度保留』4.9%の結果であった.寝たきり54人,歩行困難者34人を含んでおり,移動そのもの,その後の介護しながらの避難生活に自信を持てないのが実状と思われる. 原発事故の急性期には政府から公式に気象を加味した放射線拡散のシミュレーションデータが公表されなかった.海外からのモニタリングデータが相次いで報道され,気象(風向き,降雨・雪)と地形が放射線飛散の重要な要素と考慮され,4月23日に飯舘村・川俣町山木屋地区が1ヵ月以内の計画的避難区域に指定された.同時に農産物・牛乳などの出荷・摂取制限も指示され,春の作付け時期に暗い影を落とした.沿岸部から遠く離れ,自宅の損壊も免れている多くの住民・高齢者にとって,思いもよらない避難が求められ,福島県の避難者は12万人を超えた.農村集落では3世代同居が多く,長年,自給自足の生活を営んでいる.避難により通勤・通学の事情等から35%の家族が離散(NHK調査,2011年6月)し,高齢者支援が問題となっている. プロフェッショナルには専門的知識,一般人を安心させる説明能力,信頼される倫理感と人間性,利他的態度が要求されるとされる.医療事故が医療現場における安全管理の向上や患者の人権尊重に結び付いてきたように,今回の原発事故から原子力安全管理体制や担当者のあり方が厳しく点検される必要があろう.『想定外』が, Beyond imagination (誰1人想起できなかった)か, Out of my business (現実的に対応困難なので考慮しない)であったかは各自の立場で厳しく自己省察されるべきであろう. 1,000年に一度と推定される地震・津波の規模に加えて,福島県を襲った災害の歴史的特異性は現代社会が利便性や効率性を追求する中で開発した原子力発電所事故による放射線汚染,見えない放射線への恐怖心,汚染忌避心理による社会経済的影響(風評),被災者への差別が重複したことである.災害は長期化の様相を呈している.耐えていれば災いは原発事故による広域避難が患者・家族にもたらすこと表1B 長期化する避難所生活の問題震災・津波災害,避難区域,計画的避難区域大勢が同一空間(感染・発熱者の隔離に限界)適切な室内温度を保つのが難しい(冬季・夏季)換気が不十分(暖気が逃げる)手洗い・うがいの制限(断水)寝具,マットレス(腰痛,褥瘡,不眠)プライバシー(いらいら,不安,怒り,うつ,高血圧)長期化(あせり,疲弊,うつ….)限られた移動(廃用症候群,リハビリの中断)表1A 高度医療緊急支援 避難所巡回避難所情報の基準日(平成23年4月1日) 平成23年3月28日~4月28日地区避難所訪問避難所数対象人数*1カルテ数*2設置数収容総数延べ数実数県北738,37632245,231746県中748,67937234,477622県南168526656636会津443,81620142,272177南会津21610000相双163,08422122,248562いわき583,38747161,040252計30228,2051649515,8342,395*1 訪問した避難所の収容人数 *2 発行したカルテ数医療と原子力のプロフェッショナリズム福島の大震災の特異性(表2)

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