FUKUSHIMAいのちの最前線
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338被災地からの報告域で,10年毎に5%ずつ高齢人口の増加が予測されていた.一方,福島県の医師数は人口10万人あたり183.2人(全国平均212.9,2008年厚労省)で全国37位であり,相双地区は小児・産科・救急医療の改善のため地域医療再生計画が実施されていた. 大震災発生直後に福島県医療総合調整会議が組織され,‘情報の一元化’により被災状況や医療ニーズ・支援計画が迅速になされた.県内で唯一の大学病院である福島県立医科大学が公立法人であり,県立病院機能を持ち合わせていたことも有利に働き(長年の人的交流の存在),県災害対策本部と連携し,行政組織(国,他県,市町村),医師会,保健所(福祉事務所),被災・受け入れ医療機関との連絡・調整が図られた. 福島医大には震災発生後,全国から35の災害医療チーム(DMAT)180名が参集し,初動3日間で168名の救急患者(緑93,黄44,赤30,黒1)に対応した.軽傷者が圧倒的に多く,阪神淡路(都市型)震災と異なり,瓦礫下からの救出(外傷)例は少なく,津波による溺死が主と推定された. 3月12日から16日に東京電力福島第一原子力発電所で全電源喪失から相次いで水素爆発・火災が生じ,原発から同心円状に3㎞,10㎞,20㎞圏内に避難,半径20~30㎞に屋内退避が指示された.このため,地震・津波被災者は避難所から遠方の避難所へ民間バスや自家用車での移動を余儀なくされた.自力で移動できない入院患者・介護施設入所者の圏外搬送には自衛隊の防災ヘリ,移送車両や全国からの救急車が活躍した. 小雪混じりの早春の突然の災害による医療や介護(食事,投薬等)の中断,昼夜を問わぬ長距離の移動は低体温症,心血管イベント,脱水・衰弱をもたらした.犠牲者の多くは高齢者で,10㎞圏内3病院の急性期死亡10名中,7名が寝たきりで脳梗塞後,慢性心不全,認知症などを有する高齢者であった.死亡は移送先の病院のみでなく,避難所や移動中のバスの中でも起こった.この時期,半径20㎞圏内で約1,000人,半径20~30㎞圏内で約1,000人の病院入院患者・介護施設等入所者(高齢者・障害者)が搬送され,医療,地方行政,自衛隊,警察等が移送先の調整にあたった. 後に放射線濃度が年間20mSvを超えることから計画的避難指示が出された飯舘村と30㎞圏内避難区域には35の高齢者施設があった,これらの定員は約2,000人であり原発事故の急性期に当該地域がいかに多くの努力を要求されたかが理解できる. この大震災では急性期の2~3週間はガソリン・灯油などの化石燃料の入手が医療機関でも困難であった.地方の多くは公共交通網の利便性が高くないために,自家用車が通勤・通学,買い物等の日常生活に果たす役割が大きい.相双地区では通院手段の約85%を自家用車に頼っていた(県保健福祉部調査,2010年1月).このため,震災により移動が困難となっている避難所住民,在宅移動困難者への広域医療支援を3月末から開始した. 1.避難所巡回医療(表1A) 震災3週間後には福島県内に302の避難所が設けられ,28,205人の避難者が収容された.福島医大では小児・感染,エコノミークラス症候群予防,循環器,心のケアの4つの専門医療巡回チームによる避難所巡回を実施した.4月28日までの1ヵ月間に95ヵ所(延べ164ヵ所,15,834人)を診察した.避難所診療のニーズは慢性疾患(生活習慣病)である高血圧(27%),高脂血症(6%),糖尿病(5%)についての相談が多く,次いで,感染症(発熱・風邪・インフルエンザ)18%,腰痛等の整形外科疾患9%であった.携帯型血管エコー検査では約10%に深部静脈血栓症が認められ,適切な運動指導やストッキングの配布がなされた.震災が冬期間であったため,中越地震で問題となった車中泊による急性肺塞栓・血栓症は大きな問題にはならなかった.また,抑うつ・不安・不眠を訴える被災者への傾聴・投薬も精神科医・臨床心理士により早期から実施された.原発災害の収束案がなかなか描かれず,避難がいつまでになるのか,地元に戻れるのかについて情報が提供されなかった点が被災者を精神的に苦しめた.表1Bに避難所生活の問題点をまとめた.避難所生活が数カ月余に長期化した本震災では小さなトラブルを調整する巡回係(行政,ボランティア,核となる被災者)が大きな役割を果たした. 2.屋内退避圏の在宅患者支援 原発事故により3月15日に屋内退避指示が出された20~30㎞圏では日常生活が困難となり,多くの住民が自主避難した.原発付近に近付かない指示を出福島県災害医療支援ネットワークと福島県立医大病院の役割原発事故による緊急大量避難での高齢患者の現実避難所巡回医療と屋内退避20~30㎞圏の在宅患者支援

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