FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線333あった。 後に,本事業での研究報告会が開催されるにあたり,被災県からの報告として検案に参加した教室員から反省点をもらったが,その中には「検案活動への参加が遅かったのではないか」,「地元法医学講座からの指示が必要ではなかったか」といった内容が挙げられている。福島県警察本部から検案応援依頼があれば,教室在籍の医師に検案を依頼したはずである。福島県警察は,現地で医師が限界に近いながらも対応していたので,敢えて検案の応援を依頼しなかったのであろう。災害現地機関が「災害対策本部の一機構として位置づけられるべきである」とすることで対策本部に集まる情報を共有でき,対応しやすくなるという意味で首肯できるが,教室としてできることは日常業務を限界までこなし,それによる“余剰人員”を支援人員として応援に行くようお願いするくらいであろう。このことは,将来起こりうる災害現地へ当教室から“余剰人員”を送る場合でも同じである。余剰人員がなければ支援しようがない。今後ますます日常業務が増える中で,“余剰人員”の育成と確保並びに学会による集積が課題と考えられた。Ⅲ.警戒区域からの収容遺体の検案業務を行った医師へのアンケート調査 福島県の遺体検案において原発事故による放射線量の問題は避けて通れない。警戒区域から収容された遺体の検案に際しては志願医師を募って組織したことは既述した。志願検案医7名のうち平成24年5月10日までに届いた6名のアンケート回答を表3に示した。この調査報告書では貴重な生の意見を重視して,個人を特定できる可能性のあるものは当分担研究者の責任において改変し,回答者が記載した内容をできるだけ,そのままの形で掲載した。放射線量が高いと考えられた警戒区域の遺体検案は最も腐心した問題であるが,これに関して「困ったこと」についての回答は,「特になし」3名,「問題なかった。気にしてはいない」1名,「除染してから搬入していたので困ったことはなかった」1名,「検案全般に共通する困りごと」の記載が1名であった。捜索開始前は未経験課題の処理であり,慎重を期したが,結果的には石橋を叩いて渡った感がある。ただこのような対応ができたのは,震災発生の約1月後であったためである。参考になればと記録に残しておく。 次に,「検案における困りごと」については,何とか業務をこなせたとの自己評価であろう。警戒区域から収容された遺体は,当初,津島中学校体育館では志願医師一人で検案していたが,周囲の放射線量が高いため,検案場所が元アルプス電気社屋へと移動し,相馬署管内から収容される遺体と共に検案が行われるようになった。そこには法医学会からの派遣医師もいて,法医と共に検案を行えたことでの安堵感が読み取れる。「検案研修への提言」や「今後の大規模災害時の検案業務に対する申し送り」では,拝聴すべき内容が多い。検案経験のない医師を動員する際にはポイントだけを絞った簡便な検案マニュアル作成というコメントは今後役立つであろう。本調査で行っているような内容を記録に留め今後に活用すべきとのご指摘を受け,稿を改めた。これ以上個別に言及するよりも,コメントを表に纏めて終わりとする。謝辞 今回の調査研究に当たっては,福島県警察本部から検案体制並びに検案結果についての情報をお借りいたしました。また,福島県の原発事故による警戒区域からの収容遺体の検案を目的として組織された志願による先生方には,アンケート調査にご協力いただき,貴重なご意見を頂戴いたしました。この場を借りて心からお礼申し上げます。震災当時を振り返りますと,検視場所で寒さに震えながら遺体収容を待っていた自分を思い出します。そのような寒さの中,第一線で遺体の捜索にあたっていた警察官,自衛官,消防団員の方々のご努力にはただただ頭の下がる思いでした。そして,検視には福島県はもとより,全国から多くの警察官が応援に来てくださいました。また,検案に際しては全国から医師,歯科医師,放射線技師の方々のご尽力を頂きました。こうした方々の結集によって本県の検視・検案が成し遂げられたと考えております。ご尽力いただきました全ての方々に改めて深甚なる謝意を表します。 今後,福島県における検案結果は各方面から評価されると思いますが,それがより一層の検案体制整備につながり,法医学会の提言整備につながることを願っております。D.結論 今回の震災における福島県の検案体制を身元確認率の点からみれば納得できるものである。この理由として津波被災地でもライフラインが保たれていたことと検案の基本が順守されていたことが挙げられる。今後検案体制の整備・運用を検討するにあたっては,これらの確保を念頭に置いて検討すべきと考えられた。E.研究発表 なしF.知的財産権の出願・登録状況 なし

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