FUKUSHIMAいのちの最前線
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332福島県の被災状況と検案医体制の推移に関する調査同居家族の死亡とは異なり,津波被災では家族は全く異なる場所で発見されている。この点を考慮すれば,今後の大規模災害の検案でも被災死者全員の試料採取が改めて提言されるべきである。 最後に,福島県での検案には原発事故という特殊な事情が関係した。警戒区域や計画的避難区域の遺体捜索は,捜索する側も初めての経験であり,手探り状態でおこなわれた。地表の放射線量を測定しながら捜索範囲を拡大するしかなく,遺体捜索に時間を費やした。この区域で発見された遺体の収容には,現場で遺体の放射線量を測定し,基準設定値以下(10万cpm未満,もしくはγ線サーベイメータ<1m離れた場所で測定>で10μSv/h未満)の場合に検案場所へ搬送可とし,搬送後には車両の放射線量が放射線技師2人により測定された。次いで,車両洗浄用の噴射機で遺体の泥などが洗い落とされて再度遺体の放射線量が測定された後に検案が行われた。つまり,4月10日津島中学校から始まった警戒区域からの収容遺体の放射線量を測定するため,毎日2名の放射線技師が全国から福島県へ応援に来て頂いたことになる。また,警戒区域の遺体を検案する志願医師を募り組織した。結果的に,基準値を超えた遺体はなく,放射線量が高かった津島中学校から元アルプス電気株式会社社屋へ検案場所が移ったのでこの組織は必要なかったことになる。それでも,この組織は解散せずにそのまま警戒区域からの遺体を検案していただいた。なお,警戒区域内での遺体の放射線量測定結果は記録に残っているはずで,世界で唯一の貴重な資料であり,関係機関で纏めておくべきである。 以上のほか,当分担研究者の検案経験も感想として述べると,福島県での震災による検案は多数であったが,作業環境は整っていたと言える。他県の状況を知らずに過ごしていたが,本研究事業での報告会において他県の状況を聞くに及び驚いた。福島県では電気・水道・携帯電話通信に不自由はなく,デジタルカメラのプリント写真,検視調書・検案書のコピーも自由に使用できた。検視調書・検案書のコピーが自由に利用できなければ,遺体安置場所へ送られる携帯品・発見場所・推定年齢・身体特徴などの文字情報も制限されたであろう。さらに,遺体安置所に貼られた遺体,着衣及び携帯品のプリント写真などは身元確認に大いに役立ったはずである。申し送りをするとしたら,これらを動かせる小型発電機は必需品である。 今回の震災発生直後,これほど多数の死者が出ることを予測し,それに対応できる検案体制を瞬時に構築することは不可能である。現場からの情報に基づき順次に応援・支援部隊を送ることが重要であろう。福島県における検案は個人的にはあるいは個別的には悔いが残るものもあったが,できることは行ったとほぼ納得している。Ⅱ.福島県立医科大学法医学教室の検案体制への対応 表2に震災の前年である2010年,震災年の2011年及び2012年の3・4・5月の法医解剖数を示した。 震災当日の3月11日は,当分担研究者が午前中に司法解剖を1件終えて一段落したところへの地震発生であった。法医解剖に関しては13日1体,15日1体,17日1体,18日2体,20日1体を当分担研究者が担当した。震災後,大学病院の貯水タンクヘは給水車で給水しており,節水を求められ,解剖に際しての水使用量はバケツ1杯であった。不幸中の幸いは停電とはならなかったことである。21日以降は解剖当番が交替となったので,19日・21~23日・25日・27日・28日に相馬・南相馬での検案支援を行い,3月31日は教室員と替わって司法解剖を担当した。 地方では県内に法医学教室が1つしかないところが多く,且つ,社会的にも死因究明の要望は強くなり,警察も死因究明に重きを置いており,どの県でも解剖数が年々増えているのは同じ状況であろう。福島県でもその傾向は変わらず,今後も増加傾向は変わらないと考える。そして,表2で明らかなごとく,法医解剖は大規模災害の有無とは無関係に行われており,且つ,被災死者の検案と同じ重きを置いて,解剖という意味ではそれ以上の重きを置いて行われていることを理解する必要がある。 本研究報告書に,わざわざ地方大学法医学教室の法医解剖の現況を示した理由は以下にある。日本法医学会は平成9年「大規模災害・事故時の死体検案体制に関する提言」を出している。これによれば「災害現地機関は地方自治体が現地に設置する災害対策本部の一機構として位置づけられるべきである」として,現地の法医学教室が果たすべき役割を提言している。当分担研究者も震災直後から何をすべきかを考えながらも日々の業務に追われ,検案の応援にも行けず,メール情報の流れを見ながら,福島県警察本部へはそろそろ警察庁を通して日本法医学会へ検案支援を依頼する時期ではないかと進言した位で表2 福島医大法医学教室の法医解剖数3月4月5月2010年2018132011年1914172012年2212‐(承諾解剖を含む)

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