FUKUSHIMAいのちの最前線
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330福島県の被災状況と検案医体制の推移に関する調査元アルプス電気株式会社社屋まで搬送され,相馬署管内からの収容遺体と一緒に検案された。 表1に4地域での3月から11月までの検案数と延べ検案医師数を示した。なお,4月10日以降警戒区域から収容され,津島中学校体育館で検案された遺体については,検案数と延べ医師数を警戒区域として分けて集計した。しかし,4月15日以降に収容された遺体は,相馬市の元アルプス電気株式会社社屋まで搬送され検案されており,警戒区域での検案数及び延べ医師数として集計するとともに,相馬での検案数及び延べ医師数としても集計されている。要するに,元アルプス電気株式会社社屋へ派遣された医師の中には警戒区域及び相馬署管内からの収容遺体を同じ日に検案した医師がいるためで,各地域の合計を全て合わせると,福島県全体の検案数及び延べ医師数の合計より多くなる。 まず,相馬市及び新地町をみると,検案数は699件,延べ医師数は183人で,この地区全体での医師一人当たりの検案数は3.8件となる。南相馬では検案数は542件,延べ医師数は105人で,この地区全体での医師一人当たりの検案数は5.2件となる。いわき地区では検案数は314件,延べ医師数は73人で,医師一人当たりの検案数は4.3件となる。警戒区域での検案数は186件,延べ医師数は70人で,医師一人当たりの検案数は2.7件となる。集計では,医師一人の検案数は2.7~5.2件であり,検案医への負担は数字的には大きくなかったように見える。 次に,各地域での3~9月の月次推移の検案数及び延べ検案医師数を図3.1~3.4に示した.比較を容易にするため縦軸の単位を同じにした。 相馬では3月に延べ95名の検案医師により418件の検案が行われ,医師一人当たりの検案数は4.4件,4月は4.3件となる.南相馬では3月に延べ51名の検案医師により333件の検案が行われ,一人当たりの検案数は6.5件,4月は4.9件となる。いわき地区では3月に延べ46名の検案医師により282件の検案が行われ,検案数は6.1件,4月は1.3件となる。警戒区域の検案は3月は1件だけで,震災当日に双葉警察署で行われている。ただし,捜索が開始された4月には延べ31名の検案医師により114件の検案が行われ,医師一人当たりの検案数は3.7件となる. 各地域別・月次別の医師一人当たりの検案数は6.5件以下であり,長期的には検案医師に不足はなかったと言える。日本法医学会から派遣された医師は,相馬と南相馬に分かれて検案を行っている。例えば,第一陣の医師10名の内,8名は相馬で,2名は南相馬で検案をおこなった。しかし,検案場所で待機していた日に収容される遺体数と配置人員数がそぐわなかったことも少なくない。そのため,この2地域への人員配置やローテーションを派遣医師の中で相談して決めていた。このような工夫によって長期的には地域ごとの医師への負担に大きな偏りが生じなかったのであろう。 以上,福島県での検案地域を大別すると,1)相馬署管内,2)南相馬署管内,3)いわき地区,4)警戒区域(双葉署管内)となる。浜通り北部(相馬署管内,南相馬署管内)といわき地区とは警戒区域で隔てられたが,浜通り北部での検案場所は実質的には警戒区域の検案も含めての2箇所,いわき地区は所轄署単位で3箇所と集約したため,人員配置の効果が大きくなっている。 また,浜通り北部では,相馬と南相馬を結ぶ幹線道路は海岸線から離れていたため,津波による瓦礫で一時的に通行不能となったのは一部だけで,直ぐ復旧し,検案場所2箇所間は短時間の往来が可能で,人員の融通も容易であった。 これも地域間での検案数に偏りが生じなかった原因であろう。結局,福島県では広い検案場所を確保できたために,医師が効率的に活動できたといえる。それでもこれらは見かけ上の数値である。表1において福島県全体での5月の延べ検案医師数は49名となっているが,法医学会からの延べ派遣医師数は62名である。この相違は,この時期には検案数が少なくなっており,派遣場所で検案がないと医師はカウントされていないためである。実際の延べ検案医師数を福島県警察による集計で見ると63名,延べ医師数は422名となっており,遺体を検案した延べ医師数386名とは異なる。 次に,3月11日から4月末までの上記4地域における検案数と延べ医師数の日次推移を図4.1~4.4に示した。相馬では3月11日に検案1件だけが相馬署内で行われている。3月12~14日は30件を超える検案が,同市在住の警察医によって行われ,検案医一人当たりの検案数は12日18件,13日60件,14日38件であるが,実際には13日医師1名で60件,14日別の医師1名で38件の検案が行われている。 南相馬でも3月11日は検案1件が行われただけである。3月12日95件,13日62件,14日25件の検案が同市在住の警察医らによって行われている。検案医一人当たりの検案数は12日31.7件,13日5.4件,14日13.5件であるが,実際には12日に医師2名で60件及び33件,13日に医師1名で48件の検案が行われている。 次に,いわき地域をみると,震災当日の3月11日医師6名で7件の検案を行っている。3月12日70件,13日56件,14日27件と検案数は少なくなり,検案医

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