FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線307ある。誰もまだ経験したことのない原発事故に伴う放射能の汚染は,住民に不安,恐怖,そして怒りをもたらした。地震や津波だけなら,まだ参考にすべき再生・復興計画の前例がある。しかし,原発事故からの再生・復興には前例がないのである。 未だ経験したことのない原発事故による放射能汚染は,確実に,心身に深刻な影響を及ぼしつつある。避難という形の県内他地域と県外への人口流出,自殺者の急増,そして死亡率の増加がその一端を示唆している。 大学としての対応は,緊急時(約1ヵ月)と中・長期対策に大別して行った。後者の中・長期対策の策定は,緊急対応と同時に震災直後から検討に着手した。1.東日本大震災の捉え方 この惨禍は,天災と人災による複合災害であると捉えて対応することにした。天災とは,地震,津波,そして原発事故である。人災としては,物流,農作物,水産物,工業製品,幼稚園・保育所,そして学校など教育機関への影響が挙げられる。最近では,玉石混淆,責任と実行の伴わない様々な情報が錯綜し,いわゆる「情報災害」が,われわれが対応すべき医療・医学の範疇を超越しており,第一線で戦っている医療人に大きな負担を強いている。2.本学の対策 1)情報の共有化と啓発活動 原子力発電所の核爆発の危機が迫っているという当初の情報は,本学教職員に大きな動揺をもたらした。浮き足立った状態になってしまい,このままでは病院機能は維持できないと判断し,3月11日から1ヵ月は一日2,3回,その後は月に1回,全学ミーティングを開催した(図2)。11月までの時点で合計42回開催した。この中で,リスクコミュニケーションの専門家から,「放射能も怖いが,もっと怖いのは無知,無関心と偏見」であることが伝えられた。そして,科学の力で風評被害と戦うことの大切さを提示された。すなわち,医療人が社会に貢献するための基本姿勢の提示である。客観的データで,正しく解決するという姿勢である。 全学ミーティングとは別に管理職を中心にして実務者会議を同時に設定した。ここで,実際の行動計画を策定して,決定事項は迅速に実行に移していった。11月までに合計81回開催されている。これらのⅢ.原発事故がもたらした 心身の負担(表2)Ⅳ.大学としての対応図1 福島第一原発20㎞圏に対して避難指示の発令(3月12日)原発避難指示 対象7~8万人表2 原発事故がもたらした心身の負担南相馬市広野町楢葉町富岡町川内村大熊町双葉町20㎞10㎞浪江町葛尾村田村市福島第二原発福島第一原発避難指示避難済み(南相馬除く)約6万2,000人表1 岩手・宮城と福島での被害の差異岩手・宮城福島地震>地震津波>津波原発事故==+ → 0+ → −取り返しのつく惨禍⇩従来の認識・対策の踏襲=阪神・淡路大震災取り返しのつかない惨禍=住民:不安・恐怖・怒り放射能汚染の持続⇩前例のない対応が必要●30キロ圏施設入所者3ヵ月以内の死亡が昨年同期の3倍�讀賣新聞 �2011年7月2日●避難者数福島(16,642)>宮城(12,874)>岩手(6,127) ⇩ ⇩ ⇩帰宅(復帰)時期不明 先が見える●死者・行方不明者数宮城(11,808)>岩手(6,886)>福島(1,863) 避難者数7月14日現在 内閣府 死者・行方不明者数7月31日現在 警察庁●自殺者の急増岩手,宮城が前年比減少か横ばいなのに比較して,福島県だけが,4月以降3ヵ月連続で前年同月を上回っている�産経新聞 �2011年7月16日●福島県の人口流出止まらず,200万人割れ岩手と宮城は転入超過に�日経新聞 �2011年9月7日�2011年9月30日

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