FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線303菊地臣一・福島県立医科大学学長に聞く──放射線健康管理学、放射線生命科学の講座については、既に昨年10月、11月に設置しています。その他にはどんな講座を想定されているのでしょうか。 ニーズに応じて、必要とされたら増やしていきます。免疫、それから甲状腺関係の講座も必要。リスク・コミュニケーション、クライシス・コミュニケーションの専門家を養成する講座も作る。つまり、今回の震災・原発事故対応で、「困った」と思ったことへの解決策が見いだせる体制にしていきます。──今夏に構想を決めるとおっしゃいました。 組織や建物、研究テーマも含めて、「福島医大復興ビジョン」に関する詳細を決定するということです。本部組織、診断、治療、医工連携・創薬、教育という5つのワーキンググループで検討を進めており、夏までに取りまとめるというスケジュールです。これを今秋に発表、その後、1年くらいかけて建物の設計などを行い、その完成はその2年後でしょうか。──建物の完成を待つわけではなく、各種プロジェクトは進めていく。 はい。既に健康管理調査は始まっており、講座の設置も進めています。──「福島医大復興ビジョン」の実現に当たって、一番の問題、難しさは何でしょうか。 一番困ったのは、一言で言うと、「要望」はその人の立場で皆、異なるということ。これらを100%実現できればいいのですが、それは不可能。予算も人も限られている中で、何が一番、後世に有用な教訓になるか、という観点で優先順位を付けていくのが、私に課せられた課題。結構難しい作業で、身を削られるようなつらさです。30年後、40年後において見た際に、「こんなデータがあったから役立った」とか、「こんな教訓がある」などと思えるかどうか。つまり「後世の目」あるいは「先行する歴史の目」で考えますが、今の我々が求めるものと、後世の人が求めるものとは必ずしも一致しません。 「人の非難を受けずに済む仕事を見つけるのは、容易ではない。間違いは起きる。何一つ間違いがなくても、不当な批判を避けることは難しい」(クセノフォン『ソクラテスの思い出』)。でも誰かがやらないと、進まない。放射性物質の中間処理施設の問題も、駄々をこねるのは分かる。でもそれと一心同体になったら、物事は進みません。──大学としては、従来の役割に加えて、様々な事業をやらなければいけない。 その際に直面しているのが、「縦にはつながるが、横串がなかなか刺せない」という問題。水が流れるように、いかに横の連携が円滑に進むようになるかを組織作りの上で考えなければならない。──例えば、どんなケースを想定されているのか。 放射能の影響という一つの学問がある。しかし、社会経済学、あるいは地域が崩壊した今、その側面からのアプローチも必要。これらは極めて複雑に錯綜し合っている。その解決には、それぞれの専門家が同じ場所で一堂に会して議論を戦わせ、意見を固める必要があります。そうした場を意識的に作るのではなく、組織自体が自然に連携ができる体制になっていないとダメ。各領域が横断的な思想や運営をしないと、なかなか円滑には進まない。──放射能に関する影響についても、従来考えられているものではなく、新しい課題を見いだすためにはそうした連携が必要。 大学ではこの4月から、復興事業推進本部を立ち上げる予定です。そこには附属病院、あるいは地域医療の専門家など、いろいろな領域の人が入る。当然、大学の財務の人も。幾つかの病気を抱えている場合でも、患者さんが移動するのではなく、そこに関係がある科が集まるというイメージです。──本部の役割やメンバーは。 復興事業推進本部は、先ほど言ったワーキンググループのビジョン、進行中の計画について、いかに迅速に、円滑に進めるかを決める「司令塔」という役割を担います。何をやるかは決定しており、どのように進めるかをこの本部で決める。この「どうやるか」は今までは縦割りだったから、大変だった。今後は本部で議論し、絶えず意見交換をし、情報共有する。情報の共通化が進めば、認識の共有化にもなるので、問題も起こりにくい。本部のメンバーは担当理事クラス、病院長や大学でも中枢に位置する人だけです。10人前後でしょうか。「現場の医療人はベストを尽くしている」──この1年間、様々な震災対応をしてこられたわけですが、この4月から新たなスタートであり、地域医療、それが大学運営のキーワード

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