FUKUSHIMAいのちの最前線
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302東日本大震災から1年:被災地の今学が中心となって取り組まれています。 今、80人強の体制ですが、とても足りず、どんどん人数を増やしていかなければいけない。ただし、スタッフの多くが、心身の不調を来しています。コールセンターには怒りの声が寄せられる。それに対応しなければいけない。国は「予算を付けたから、やってくれるだろう」と思っているのかもしれませんが、人の確保は容易ではありません。──健康管理調査の担当は、大学の職員でしょうか。 大学の臨時職員と、県の職員が中心です。現状では、基本調査票(問診票による被ばく線量の把握)の回収率は20%強。私は整形外科、脊椎の専門家ですが、5年後、10年後の手術成績を出すために患者さんに手紙を出すと、戻ってくるのは10%程度。これに比べれば20%は、ある意味、高い数字。ただ20%では統計的に何もできないので、当面50%以上を目指します。ただ、18歳までの子供の甲状腺検査の実施率は非常に高く、80%を超えています。親は心配で関心があるから、子供を連れてくる。基本調査票の回収率を20%を50%に上げる、子供たちについては今後、フォローを続ける。これが我々に求められる役割。これほど大規模な健康調査は、歴史的にも、世界的にも例がありません。──今は調査が中心ですが、そのフォローの体制構築も必要になってくる。 はい。今回のような低線量、長期被曝に関する調査は例がありません。「そんな調査、できるわけがない」「そんな調査をやっても、ネガティブなデータしかでない」などと言う方がいます。しかし、ネガティブデータでもいいのです。被害を受けた県民が「安心」を得るためには、どうすればいいかという手段であり、我々としてはやり抜かなければいけない。サイエンスもさることながら、この健康管理調査は心の問題であり、大学として最重要課題として取り組んでいます。「県民の健康を一世代、つまり30年にわたって追跡していく。だから安心してください」と言ったわけですから、それを忠実にやっていくしかない。 ただ我々だけではとても無理なので、関係学会、行政などの支援も必要です。特に、健康管理調査により、個人情報が集積されますから、セキュリティー対策も重要。大規模なデータベースも構築しなければいけない。そのためには新たな組織を作らないといけない。健康調査から放射線被曝の臨床・研究まで──前回の取材の際に、「福島医大復興ビジョン」をお聞きしました(『福島医大復興ビジョン、「悲劇から奇跡へ」―福島医大学長・菊地臣一氏に聞く』を参照)。 県民の長期的健康管理調査に加えて、放射線障害に対する最先端診断・治療拠点整備による早期発見・治療、創薬・医療福祉機器等の開発、放射線専門医療人の育成まで、総合的に取り組む拠点の構築を目指しています。大枠の構想はできており、今は詳細を検討している段階で、今年夏までには構想を決定します。この拠点には、国際連携も求められ、IAEA(国際原子力機関)、ICRP(国際防災復興協力機構)、WHO(世界保健機関)などとの連携のための人選も既に進んでいます。この健康管理調査のデータには、世界中の研究者が高い関心を持っていますので、大学がきちんと情報を発信していかなければならない。その広報担当の教授も決まっています。これらの活動自体は4月から正式にスタートさせます。──健康管理から、放射線被曝に関連した臨床や研究までを取り組む。 研究面では、甲状腺がんの話ばかりに皆が関心を持っていますが、甲状腺がんが問題になることはチェルノブイリ事故で分かったこと。でもそのほかの問題があるのではないか、という問いに対しては誰も答えられない。少なくても、100mSv以下の被曝についてはこれまで報告もありませんが、「問題がない」ことを証明するのは大変。病気にまでは至らなくても、例えば免疫の面など、何らかの影響があるかどうかを調べる必要があります。──ゼロベースで、放射能の影響の有無を調べていく。 はい、それをやらなければいけない。原発事故当時、福島に住んでいた方々のすべてを対象とする。既に九州に移住した方などとも比較する。それも何十年にわたって追跡する必要があります。これらについて、4月から本格的にスタートさせます。──どんな組織を発足させるのでしょうか。 健康管理センター内に、すべての組織を置きます。「福島医大復興ビジョン」、4月から本格始動

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