FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線301 その際に、放射能汚染について、まだ福島県民は十分に受け入れてはいないという現状があります。メンタルヘルスケアの問題、心の問題も重要。今は国や県、行政に対して、「何とかしてほしい」「放射能をゼロに」という怒りも混じった声が上がっていますが、もう放射能と『共生』するしかない。それをどのようにして実現していくか。「9.11」とも異なり、これまで人類が経験したことがない問題なので、一朝一夕には行きませんが、我々は逃げられない。まさに国家プロジェクトで、ケアミックス体制の構築やメンタルヘルスケアの問題解決に取り組まなければいけない。──既に医師を5人程度派遣しているとのことですが、場所は南相馬市でしょうか。また、4月からの寄付講座についてもう少し具体的にお教えください。 様々な志を持って、全国から馳せ参じてくれる医師がいるため、新たに災害医療講座を作り、教授、准教授、講師などの肩書きで身分を保障します。医師によって希望は様々で、南相馬市でずっと医療をやってもいいという人、あるいは大学での高次の救急や研究をしながら、応援したいという人もいます。これらのニーズに応じるため、大学に講座を作り、給与も大学が保証します。特に精神病床については、南相馬市のある相双地区は壊滅状態です。新たな講座には精神科の医師が2人、そのほか脳神経外科、麻酔科、神経内科などの医師が来ます。──もう10人の医師は決まったのでしょうか。また時限的な講座でしょうか。 ほぼ決まっています。講座は、4年間の予定です。ただし、4年ですべてが解決するとはだれも思っていません。何十年という時間が必要ですから、4年が経った時に、どんな形で継続するかをもう一度、考え直します。恐らくその時に求められるニーズは、今のニーズとは変わるでしょう。地域のニーズ、そこで働く先生のニーズの変化に応じて、大学として責任を持って支援していきます。──災害医療講座の教授は何人ですか。 今のところ2人で、一人は外科、もう一人は麻酔科の先生の予定です。──医師の数は揃ったとしても、医療体制をどう再構築していくか、町をどう再生させるかが課題。 手探りですね。地元の方々から大学に来ている要望は、100%以上満たしています。しかし、それだけでは問題解決にはならない。介護、それからコメディカルの方々の問題。これらは県や国が一体として取り組まなければならない。その際、念頭に置かなければいけないのは、我々地域の人が頑張らない限り、誰もよそから助けには来ないということ。「弱者の恫喝」のように、「お金がほしい、人がほしい」では済まない。地震や原発事故が起きた。そこに自分が居合わせたことは天命なので、当事者である我々が頑張らないと、誰もそれを、「大変だ」と共感を持って応援してくれる人はいません。 これが考え方の基本ですが、問題は非常に複雑、多様なので、それにいかに対応していくかはやはり大変。特に放射能の「安心」の面ではまだこれからで、一部のメディアは匿名で、しかもいい加減なことを書いていますから……。その記事により、懸命に頑張っている人たちが、「匿名の風評被害」に対応しなければならなくなる。先日もある週刊誌に放射能問題が取り上げられ、問い合わせの電話が多数あり、それに大学は対応しなければならなくなった。しかし、記事をよく読んでみると、何も断定的なことは書いていない。こうしたことはよくあり、対応する行政をはじめ、関係者も被災者で、家族が避難している人もいる。厳しい状況下で、対応に忙殺されて、また仕事が増える。ただでさえ人が少ないにもかかわらず、バタバタと倒れています。「風評被害」への対応に力を割かなければいけないのは、悲劇です。全く生産的ではありません。──先ほどの「寄り添い型の医療」ですが、南相馬市などには高齢者が多く、一方、子供や若い人たちは福島県の他地域に避難している。その方への対応もそれぞれ必要だと。 はい。妊婦、子供など、それぞれの世代の方に対して医療面で求められる役割は皆違います。今までの医療とは異なり、「キュア」ではなく、「ケア」の思想を持って、その場その場で対応するのではなく、その人の人生を追いかけていかなければいけない。放射能をいくら除染すると言っても、限界があり、『共生』していかなければいけない。「ケア」の発想がないとやっていけない。例えば、今は子供であっても、5年後にはもはや子供ではなくなる。高齢者は亡くなるまで面倒を見る。妊婦さんは母体だけでなく、生まれてくる子供について今後何十年も見ていかなければいけない。絶えず、その人の人生に寄り添っていくことが求められるのです。──大学としてどこまで責任を負うかという問題もありますが、今は福島県民の健康管理調査は大

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