FUKUSHIMAいのちの最前線
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296月刊ジャーマック 2011 October Vol.22 №10(社団法人日本医業経営コンサルタント協会)Interview掲載リスク・コミュニケーションの重要性公立大学法人福島県立医科大学理事長・学長 菊地 臣一原発災害に立ち向かう(下) 災い転じて福となす。福島県立医科大学は、福島第一原子力発電所の事故から放射線医学の研究とそれを担う人材養成の新たな課題を得た。では、社会や一般人はこの未曽有の原発事故からどのような教訓を学びとるべきか。リスク管理の重要性を認識し、国民一人ひとりが自分の安全は自分で守る努力が必要であることを力説した。──福島モデルを作られて、どんな成果を残したいのか教えてください。菊地 福島県の悲劇は、全世界の人々にとって知りたい情報だと思います。なぜかというと、今後は起きないという保証は全くないからです。100%安全・安心な社会などあり得ませんので、起きる可能性を考えていいと思います。その時に役立つシステムづくりと知識・技術の集積がわれわれに課せられたのだと思って、今、基礎から臨床までを含めたセンターを作り、国際的な人材を集めてデータをオープンにしようと考えています。もちろん、あまりいい加減な使い方をされると困りますし、個人情報の問題もあるので、後世の評価に堪えるような研究をする人に限ってオープンにして、発信し続けた方がいいのではないかと考えています。 その理由は、今回、われわれ医療人も含めて、放射線に対する知識が少なすぎると実感したからです。放射線は悪いことばかりではなく、放射線治療などで非常に脚光を浴びています。ですから、これをもって放射線を全否定するのは間違っていて、もう少し冷静な視点が必要ではないかと感じています。 そのような点から言えば、次の世代に向けて、放射線の専門家、技術者、科学者を養成していかなければいけません。今回の事故で多くの専門家と接触しましたが、若手が少ないという印象を受けました。山下俊一※先生も同じ意見ですが、放射線医学や原子力発電所の技術者などに若手が少ないのは、新しい原子力発電所の建設が長い期間なかったからです。それから、日本には大学の講座がほとんどありません。 もう一つ、欧米にあって日本にないもので、リスク・コミュニケーターというリスク・コミュニケーションのプロと、科学を一般の国民にわかりやすく説明できるサイエンストランスレーターの存在で、日本にはいません。原発事故を極端に煽るような記事が出たり、功名心だけに走る人がいたり、医学者と物理学者の話がかみ合わなかったりするのは、間に立つ人がいないからです。海外には、歴史でも科学の現状でも、国民にわかりやすく伝える技術を持った集団が職業としてあります。それから、リスク・コミュニケーションのプロ集団があります。今回の場合、放射線に対するリスク・コミュニケーションのできる人がほとんどいませんでした。その数少ない人が山下俊一先生、神谷研二※先生だったのです。ですから、先生方にいろいろなところで説明をしてもらっているわけです。──一般の国民が求めているものは安全と安心です。菊地 安全と安心は全然違います。安全はサイエンス(科学)ですが、安心は心の問題です。心の問題は、福島医大の使命科学をわかりやすく説明するプロ※:前号参照、今回菊地氏が福島医大に招請

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