FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線293いただけです。周囲といっても大学内に限らず、大学外の場合もありますが、相談した時間や考えていた時間は1時間もありません。──お見事ですね。災害に対処するときに一番大事なのは司令官で、一人が指揮棒を振ることが大事です。菊地 そのとおりです。まず、窓口の一本化と情報の共有化が必要です。窓口を一本化しないと、情報が錯綜してしまいます。しかも、良かれと思ってさまざまな発言や、行動をされるのですが、まさにマルクスの「地獄への道は善意の敷石で舗装されている」という言葉のように、全てを聞いていたら、とても対応できません。やはり拙速でなければいけないのです。──阪神・淡路大震災の時には、自衛隊の出動を何日も遅らせて歯がゆい思いをしました。外国では、災害時には指揮官が出て一人で指揮しています。西ドイツの高速鉄道事故のときも、米国・ロサンゼルス大震災の時もヘリコプターが2機飛び立って、上空から指令を出していました。そうでないと救済はうまくいきません。菊地 文科省の方が「現場を見なさい」ということで毎日二人ずつ詰めて、朝から晩までわれわれの会議を全て見学していました。文科省の高等教育課長とは電話連絡をして、県の災害本部ともトップ同士で簡単に意思疎通が図れて、非常に連携がうまくいきました。その時に、非常に大きな災害の時はどうするかという福島モデルというものを作ったのですが、これはおそらく、今後の参考になっていくと思っています。──その福島モデルについて、もう少しご説明してください。菊地 資料をご覧ください(図表1)。このようなことを結果的にやりました。これは情報の流れでもあるわけです。──このハブに情報が入ってくるということですね。菊地 災害対策本部の中に大学が組み込まれる形で、一体となっているわけです。県の対策本部長は県知事です。そこがお互いに一体となっていて、県の対策本部に大学の代表として、今回は医学部長を送り込んだのです。そうすると情報が問題なく伝わります。つまり、お互いに入り込まないと駄目なのです。縦割り行政の弊害をなくすために、こちらからも送らないといけませんので、まずは医学部長を送りました。情報の共有化と窓口の一元化です。窓口は一つにする。──それですと動けますね。菊地 拙速ですから、当然ミスもありますが、そのミスが大きければ、トップが責任を取ればよいのです。──拙速の「拙」はあり得るけれど、何しろ災害有事ですから、急がねば。菊地 積み上げ方式では通用しません。今回は、他県のような地震プラス津波というものではないわけです。やはり最初は恐怖ですよね。目に見えない恐怖は想像以上で、医療職といえども浮き足立ちました。ですから今、メンタル・へルスケアを精神科の講座が中心にやっています。米国の9.11のチームとも連携していますが、彼らのマニュアルがそのまま通用しません。やはり、原発事故は目に見えない恐怖だからです。地震や津波やテロはいくらダメージを受けてもゼロであって、マイナスにはなりません。しかし、原子力災害はマイナスです。しかも、図表1 県と医大の連携出所:福島県立医科大学中央省庁市町村病院医師会DMATREMAT自衛隊(医大から派遣)災害医療調整医官+医療班(県内情報収集と調整)窓口一本化福島県災害対策本部福島医大災害対策本部(医大情報集約、意思決定)全学ミーティング(情報共有)附属病院医学部看護学部

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