FUKUSHIMAいのちの最前線
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292月刊ジャーマック 2011 September Vol.22 №9(社団法人日本医業経営コンサルタント協会)Interview掲載トップのリーダーシップを問う公立大学法人福島県立医科大学理事長・学長 菊地 臣一原発災害に立ち向かう(上) 今年の「原爆の日」には特別の思いが寄せられた。66年前の出来事と福島原発事故とが二重写しになって国民の目に、浮かんだからである。戦争と平和時の風景は異なるが、原子炉建屋の水素爆発はきのこ雲を連想させ、放射能の恐怖が人々を襲ったことに違いはない。原発事故の被災者たちはこの先一世代、30年にわたって身も心も蝕まれる不安にさいなまれねばならないのだろうか。医学、医療の総力をもって立ち向かわなければなるまい。──福島県立医科大学に、山下俊一先生(長崎大学)を特命教授としてお迎えになりました。菊地 はい、今は副学長に就任していただいております。それから、広島大学からも神谷研二先生を副学長として7月15日にお迎えしました。──そのいきさつを教えていただけますか。菊地 私から直接、各大学の学長にお願いしました。放射線被曝の問題に関して、われわれも含めて日本では、正しい知識やノウハウを持ちあわせていません。そのため、大学病院をはじめ、職員が浮き足立って総崩れ寸前になってしまったのです。福島県では本大学が二次医療機関ですから、それが崩れると総崩れです。まず、職員が正しい知識を得て冷静になれば、他人のために働けるのではないかと考えて、リスク・コミュニケーションを長年専門にされている山下先生と、放射線の影響を専門にされている神谷先生にお声を掛けて、すぐに来ていただきました。そして、まず現場の職員、県の幹部の動揺を静めれば、結果的には福島県や福島医大が歴史上だれも経験したことのない惨禍に、極めて有効に対応できることになります。 被災地周辺では病床数にして500床の入院医療機関が機能停止しました。そのためには、患者さんを集めてトリアージをして、後方の施設に送らなくてはいけませんので、その役目を私たちが引き受けようと決めました。その前提として、職員が頑張ってくれないことには成立しません。そこで招請した2人の先生に2,000人近くの全職員と県の幹部に講義をしていただき、心配ないということで、落ち着いて患者さんを引き受けています。 結果的にはそれが功を奏して、あまり大きなニュースにもなっていません。これは医療の面ではよいことで、大混乱に陥らずに済みました。それは、大学病院のスタッフが落ち着いて冷静に対応してくれたことと、ここがハブになって、患者さんを集めて評価し直し、県外も含めたさまざまな病院に頼んだこと、それを自衛隊や警察、消防に全面的にバックアップしていただき、さらに文科省も他大学に協力依頼を出してくれたからです。その点では、二人の先生の貢献度は極めて高いと思っています。広島大、長崎大からはその他にも続々と入っていただきました。 その間、会議をしている余裕はありませんので、理事長兼学長である私が決断して動かしました。このような時は強いリーダーシップ、ある意味で衆議独裁が必要です。みんなで情報の共有化を図るけれども、私が決めさせてもらう。ただし、なぜそう決めたのかは、わかるようにしています。限られた人数と時間で限られたことをしなければなりませんから、当然、優先順位を付ける必要があります。これは民主主義では決まらないので、一人で決めるしかありません。ですから、衆議独裁で決めることが、結果的には非常にうまくいくということなのではないかと思います。──山下先生、神谷先生は先生のお知り合いだったのですか。菊地 いいえ、全くの初対面です。周囲の方々に聞災害時の対応には衆議独裁が必要

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