FUKUSHIMAいのちの最前線
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284破壊的な惨禍に、「衆議独裁、拙速」で対応──東日本大震災および福島第一原発事故から約4カ月半。この間、浮かび上がった教訓はなんでしょうか。 私はこの6月、本学の5年、6年生を対象に現状と今後について講演し、我々は今回の震災から何を感じ、何を学んだかを話しました。 非常に多くのことがありますが、一つには、私自身も含め、我が国は有事、つまり破滅的な出来事、惨禍に対する体制整備ができていなかったことが挙げられます。縦割り行政、組織がその一因です。破滅的な出来事に対して、一省庁や一組織ではなく、一元的に対応できる組織がなかった。 また、日本人の優れた点でもありますが、非常にきちんとしているため、新幹線をはじめ、「事故は起きない」というのが前提であり、それが長年続いてきました。結果として、我々、そして政府、官庁も含め、あらゆる組織が目先のリスクを回避してきたのではないかと思っているのです。 さらに、福島県と岩手県と宮城県は根本的に違うという事情もあります。地震や津波はこれまでも起きており、これからもある、と皆が思っている。それに対しては、日本人は歴史上、たくさんの経験を積んでいます。一方、原発事故、しかもこのような人口密集地での事故は世界でも初めてのことです。その上、「微量、長期の被曝」、これも初めて。だから福島県民や近隣県の住民が受ける不安や恐怖、怒りは、他の県とは全く違うという視点に立って復興を考えていかなければいけない。 津波や地震の復旧・復興は、ゼロからのスタート。これに対し、原発事故の被害を受けた福島は、マイナスからの出発です。このマイナス分が、どのくらい深いのか、復興までにどのくらい時間がかかるのかは、正直言って誰にも分かりません。このことが、人の心、安心の問題にも関係してきます。安心の問題は、サイエンス、つまり安全では片付きません。安全というサイエンスを安心にどのようにして結び 「福島県と、岩手県、宮城県は根本的に事情が違う」。福島県立医科大学学長の菊地臣一氏は、こう指摘する。同医大は、地震と津波に加えて、福島第一原発事故に伴う放射線による健康影響問題を抱える福島県の医療の拠点。「福島の場合は、マイナスからの復興。いまだそのマイナス分がどのくらい深いのかは不明」(菊地氏)だが、「悲劇から奇跡へ」の転換を目指す菊地氏は、「福島医大復興ビジョン」に将来を託す。放射線医学に関する一大拠点を創設し、福島県民の長期的健康管理のほか、国内外の研究者や臨床医を集め、臨床、研究・開発に取り組む計画を描く。 菊地氏に、今回の震災・原発事故の教訓と将来構想をお聞きした(2011年7月28日にインタビュー)。m3.com 医療維新掲載福島医大学長・菊地臣一氏に聞くm3.com編集長 橋本 佳子東日本大震災:被災地の現場から福島県立医大は、建物自体には損傷がなかったものの、福島第一原発事故の周辺地域から多数の患者が搬送された上、断水が約1週間続き、震災直後は厳しい状況が続いた。原発被害でマイナスからのスタート

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