FUKUSHIMAいのちの最前線
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278い」と言うまで、食品検査・内部被ばく調査などを地道に積み重ねていくしかないのです。それを続けて行くためのリーダーシップも必要なのではないでしょうか。被災者が被災者を責めてはならない──原発事故が起こってしまった以上、この事実をしっかりと受け止め、対応しなければなりませんね。菊地 ええ。その通りです。震災以降、絆という言葉が強く叫ばれていますが、被災者が被災者を責めるような場面も目にします。これはあってはならない事で、醜い事です。ちなみに、これまでに原発は危険だと警鐘を鳴らしていた人がいましたし、文献も存在していました。ところが少数派として扱われ、我々は聞く耳を持たなかったのではないでしょうか。原発の運転を認めていたのは、われわれ国民です。政府です。まずはそれを真摯に受け止めた上で、世界中の“専門家”にこれからの対応を頼ることが大事です。──震災の後、原子力の専門家と言われる方々が数多くマスコミにも登場しています。菊地 専門家とは原子力の問題をライフワークとして取り組んでいる科学者や技術者のことです。わが国にはそれほど多くの専門家はおりません。だから世界中の専門家の英知を集めることが必要なのです。それに私たちも賢くならなければなりません。もっと勉強しなければならないのです。我が国は、国のエネルギー政策の根幹に原子力を据えていたのに国民に対する“リスク・コミュニケーション”がなかったのです。“リスク・コミュニケーション”とは?──“リスク・コミュニケーション”とは、具体的にどういうことですか?菊地 英語圏には“サイエンス・ライター”とか“リスク・コミュニケーター”という、高度な科学を一般に分かりやすく伝える職業があるんですよ。例えば、私は年間50件ぐらい講演をやるのですが、専門家が相手か、一般市民が相手かで講演の話し方が全く違うものになるのです。市民公開講座などで中身を本当に分かっていただこうとすると話し方を変える必要があります。このような“リスク・コミュニケーター”が日本にはいないと言っていいのが実情です。この数少ない専門家の一人が、現副学長として私が招いた山下俊一先生です。それで山下先生に来てもらいました。山下先生はチェルノブイリにも入り、豊富な体験を積んでいる原子力医療の第一人者です。これからは福島医大としてリスク・コミュニケーションが出来る人材を育て、子どもや若い人たちはもちろん、あらゆる方々へ原子力に関わるさまざまな問題を広く、分かりやすく伝えていかなければならないと思っています。海外の方が原発のリスク回避に貪欲──海外の方々は、リスクに対する高い意識を持っていると聞きます。菊地 そうです。だから福島医大では新たに国際連携部門を作りました。海外の方々は今回の日本の原発事故から“冷徹に”学ぼうとしています。東南アジア、中東ではこれから、原子力発電所をどんどん作っていこうという動きがあります。適切な言い方が見つかりませんが、彼らは“原発は必要、でも必ず事故が起こる”と考えています。事

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