FUKUSHIMAいのちの最前線
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第3章放射能との闘いFUKUSHIMA いのちの最前線251福島医大,福島医大整形外科の活動と福島県の現状た.その内訳をみると,原発を有する相双地域が59名,郡山市が30名の減少であった.一方,福島医大がある福島市を中心とした県北地域は14名の増加であった(表3).結果的には,避難を強いられ,病院での医療活動ができなくなった相双地域の医師を福島県内で吸収することができず,医師の流出を食い止めることができなかった.比較的放射線量が高いとされている福島市を中心とした県北地域では医師の流出はないにもかかわらず,同様の条件である郡山市の医師流出が進んでいる理由は定かではない.関東圏から派遣されている医師が引き揚げていることがその原因のひとつであると推察される. 臨床研修医招聘にも影響が出ている.2011年4月から福島県内で研修を始めた医師は70名で,4名が震災後,特例処置により,研修先を福島県外へ変更した.また,平成24年度のマッチングは,福島県のマッチング数は61名で,新臨床研修制度開始以来,最低のマッチング数であった(過去8年間の福島県の平均マッチング数は76.6人).総数からみると,61名という数字は,全国では下から9番目のマッチング数であった.定員に対するマッチング率(充足率)は41.8%であり,47都道府県中で最低であった(参考文献・資料6).災害医療研修センターとタイアップしながら,福島県内の臨床研修病院ネットワークを核として,福島でこそ学ぶことができる研修を前面に押し出して,福島県全体として臨床研修医招聘に努める必要がある. 福島第一原発から20㎞圏内,あるいは,放射線被ばくが比較的高いとされる計画的避難区域や特別避難推奨地域の住民は,津波で住居が流された住民と同様に,様々な場所で避難生活を行っている.特にいわき市では,避難してきた住民が3万人を超え,地域の福祉・行政,あるいは医療機関の対応能力の限界を超えている.厚生労働省は,2012年1月27日付けで,相双地域での医師不足の解消のために南相馬市の相双保健福祉事務所に設置している「厚生労働省相双地域医療従事者確保支援センター」を「厚生労働省相双地域等医療・福祉復興支援センター」に改称し,厚労省の職員を2名から3名に増員して,いわき市の福祉分野のてこ入れを開始した. 今回の震災とそれに引き続く放射線問題により,相双地域の入院機能を持つ16の医療機関のうち,2011年12月末現在で震災前と同様の機能を有しているのは3病院に過ぎず,7病院が原発20㎞圏内にあるため,機能が完全に停止している(図3).特に精神科の病院はすべての入院機能を失い,1病院が外来を再開し,相馬市に精神科の外来を開設し,対応している.全国からの支援により,アウトリーチ型の精神科クリニックが開設され,また,1病院が入院機能を含めた再開を計画中である.一方,地域別にみると,放射線問題で一時期7万人を超えていた人口が1万人まで減少した南相馬市は,緊急時避難準備区域の解除とともに,小中高校の再開と相まって,人口が4万人までに回復してきた.しかし,南相馬市の医療の中核を担ってきた旧原町区の4病院の現状は,表4の通りである.医師の数もさることながら,看護師をはじめとするコメディカルの確保がままならず,医療の復旧のめどが立たないのが現状である.図3 相双地域の医療機関相双地域にある16病院のうち、2011年12月末現在、完全に機能を停止している病院が8病院、外来・入院を一部再開している病院が5病院である。完全に機能を維持している病院は、福島第一原発から30㎞圏外の3病院に過ぎない。緊急時避難準備区域は、2011年9月30日をもって解除された。

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