FUKUSHIMAいのちの最前線
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第3章放射能との闘いFUKUSHIMA いのちの最前線231計画的な投与はなく,ヨウ素剤の箱が置いてあり自発的に飲むようになっていたということです。東電の協力会社ではヨウ素剤を認識していない人もおり,飲んでいる人と飲まない人で,初期の段階ではまさしく個人の判断に任されていたと思います。前川:実は,1Fのほうは常駐の医師がいらっしゃいませんでした。そして最初に神裕先生(日本原燃)が入られた。ただ最初から2Fのほうは医師がいらっしゃるのですが,1Fの医師はちょうど3月にお辞めになっています。最初の1週間ぐらいは医師不在で,混乱状態になりながら誰も医者がいなかったということで,働く人の志気レベルに関わる問題がありました。2Fのほうは終始,医師がいたということで,現場で働く人たちの精神的な支柱になったということを,2Fの所長さんからも直接お間きしています。原発サイト内・周辺の医療活動と被ばく医療前川:さて,あとは原発サイト内・周辺の医療活動で,サイト内については衣笠先生にお話いただいた通りだと思います。特に周辺の医療活動は長谷川先生からも聞いておりますが,複合災害だったためにみんな被害を受けていたということです。阪神淡路大震災のときも医療機関は多かれ少なかれ影響を受けたんですが,今回は二重苦だったということで非常に困った。 最近,毎日新聞が全国の被ばく医療機関にアンケート調査をしました。それに初期,二次被ばく医療機関の40%が20㎞圏内であったということで,40%は機能しないだろうと書かれていたので,抗議の電話をかけました。「たまたま今回20㎞圏だったけれど50㎞圏では? じゃあ100㎞圏で被ばく医療機関を作りますか?」という話で,「100㎞圏外に作ってもいいですが,そこに到着するまでに患者さんは亡くなってしまいますよ」と。私たちのコンセプトは小規模事故で,最寄りの医療機関を想定していたということです。5㎞圏も10㎞圏内でも,一番近いところで対応していただいて,救急処置をしていただき,それから二次,三次と専門的なところに送ってくださいということが,私たちの当初の目的だったんですね。 ところが今回は20㎞圏内に3つの病院が入ってしまったということがあって,それを騒がれると,ウーン,そう責められても困るなと思ったのですが,長谷川先生,そのあたりはどうでしょうか?長谷川:今そのような認識をうかがいまして,なるほどそういうことなのかと感じました。ただし,そうなさるのであれば,「すべての病院において被ばく医療を」という考え方をより周知していただかないと,この問題は解決しないと思います。逆に「すべての病院で被ばく医療を」という考え方に立っていただければ,この問題は解決すると思います。 私は,今回の事故の前まで,被ばく医療との関わりはございませんでした。申し訳ないですが,他の先生方の分野だと思っていました。一般医師の感覚はそんなものですから日本がもし原子力発電をこのまま続けるのであれば,緊急被ばく医療に関する知識を一般的なものにしていくしかないと思いました。前川:非常に核心をつく発言で,グウの根もないのですが,実はこの議論は過去15年間ずっとやってきたんです。今は事故が起こってああいう事情があるから,みんなそう思うのですが,それがないときに発言しても,誰も向いてくれませんでした。 ではどうするのかということを衣笠先生や鈴木先生,ここにおられる先生方と一緒に議論してきました。医学教育や救急医学会で災害医療の技術,知識の中にこれを組み込むことが一番いいだろうということも議論しました。今,長谷川先生がおっしゃったように,一般の医師あるいは救急医は,放射線災害対策として放射線に関する基礎知識を持っていてもおかしくないのではないかと思います。メンタルヘルスとリスクコミュニケーション前川:さてその次,諸澄さんの先ほどの発表でショックだったのは,遺体のスクリーニングをされたというお話です。いくら60歳,63歳の人を動員したとしても,これはショックだったと思います。それ以外に実際にスクリーニングされていて,何かこれからもしそういう事態になったときに,こうしたほうがいいというものがありますか?諸澄邦彦:実際に派遣するにあたって,まず職場の上司の理解を求めなければ行かれません。それから家族の理解,あと独身の人もいますので,緊急時のために血液型やいろいろな連絡網を整理していくということで,そういったカードができているとすごく迅速にできたと思います。 実際にサーベイのほうは先ほどお話したように,1999年から放射線管理士の認定制度がスタートしていますので,管理士の認定資格者はだいたいできています。ただ,検案前の遺体に対しては私どもも経験がなくて,こればかりは厚生労働省を仲介として福島県警察本部からのサーベイの依頼があって,いかがでしょうかといわれたものですから,定年退職された年輩の方ならいいんじゃないかという,安易な部分でお引き受けしたところがあります。

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