FUKUSHIMAいのちの最前線
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230将来の緊急被ばく医療の課題うに思いますが,結局,それはその場で宙に浮いたようなかたちに,結果的にはなってしまったのだろうと思います。前川:これから先を見ていかなければいけないのですが,チェルノブイリ事故の場合とわれわれとの違いは,私たちは海洋国でかなりのヨウ素を摂取しているという楽観論があることと,早くから飲食物の流通の規制が入り,とりわけ放射性ヨウ素に汚染されたミルクの規制が早くから入っていることです。そういう意味では状況は違うと思いますが,安定ヨウ素剤の投与についての議論もそのあたりで消えてしまっているので,きちんとしておかないといけないだろうと思っています。 また,現場の作業者の方々が服用する場合の問題があります。実はすべての今までの原子力防災は,放射性プルームが通り過ぎるという想定での議論だったのですね。ですから安定ヨウ素剤は1回の内服です。そして2回以降は,そういう状況になれば屋内退避あるいは避難をしなさいということしか決めていませんでした。ただし,今回は想定外の大規模な放射線事故が起こってずっとプルームが出続けたものですから,どうするのかということになっています。 そして明石先生が出席された日米会議が3月16日にありまして,そのときに話題になったわけですね? そのときに2週間まで飲みましょうというサゼッションや議論はあったのでしょうか?明石真言(放射線医学総合研究所):ヨウ素剤につきましては,ファーストレスポンダーの場合非常に強い組織があります。たとえば警察,消防,自衛隊,海上保安庁などで,その人たちは毎日投与するというプロトコールがありました。専門家の山下俊一先生とも相談し,それでは甲状腺機能に問題が出てくるだろうということで,毎日服用は止めるように注意しました。日米のMRCとの合同の会合の中で出たのですが,1週間75㎎の服用で甲状腺機能低下症が出るというようにアメリカの教科書には載っていますね。その提案をしたのですが,もうマニュアルに載ってしまっているということで,変えられないという状況でした。 それと2週間服用するというのは,原子力安全委員会が確かそういうコメントを出していたと思いますが,われわれはそれは違っているという意見を出しました。前川:最終的には?明石:最終的には2週間というコメントが,原子力安全委員会から助言として出ました。前川:それは3月18日でしたか?明石:そうです。多分,その頃だと思います。前川:ですから3月11日から3月18日まで,空白の期間があったということですね。つまり最初の頃に内部被ばくをした東電の社員ですが,1回しか飲んでいないかもしれませんし,もしくはまったく飲んでいないかもしれません。そのへんは私たちも謝らなくてはいけないといいますか,今までの防災計画の中ではプルームが通過するという前提だったために,1回だけしかヨウ素剤を配布しないという想定でした。それが今回のようにプルームがずっと出続けているわけです。ファーストレスポンダーはそれ以降は,3月18日以降に出た安全委員会からの指示で,2週間までは1回目は100㎎,2日目以降は50㎎ということになっていたはずですね? どうですか?鈴木:ヨウ素剤については,ファーストレスポンダーはロジスティック的に持って行ったのではと思います。自衛隊は持っていましたから,自分たちで服用できたと思いますが,警察,消防はJヴィレッジからでしか供給できなかったのではないかと思いました。明石:ファーストレスポンダーの中でもいくつかあります。ヨウ素剤を自分で持っていたところもありますし,それからわれわれはかなりの部署に供給しました。出動する前の夜中の3時に貰いにきたところもありますし,基本的にわれわれのところに連絡があったところでは,お持ちでないファーストレスポンダーの人たちに対しては,全部ヨウ素剤を渡しています。そして投与方法についてもいろいろ議論したのですが,医師が処方箋に似たようなかたちで投与するという試みをしました。多分,3月15日から23日までの配布だったと思います。前川:医師がついて行ったり,医師のアドバイザーを持っている部隊は,そういうかたちで準備したと思いますが,持っていかなかったところは困ったと思いますね。東京消防庁は初めからアドバイザーと相談しながら行っていたので,おそらく持っていたと思います。東電は飲んでいますか?衣笠達也:十分,飲んでいます。ただし今のことをもう少し厳密にいいますと,私自身,今何日目でどのくらい飲んでいるかというデータは確認しているのですが,一体,いつから何人飲み始めたかというのは確認しておりません。初期の2日ぐらいの間のデータは私の中にインプットされていますが,今ここではすぐには申し上げられませんので,あとでそれをご説明することはできるかと思います。鈴木敏和:これは事故当時免震重要棟にいた作業者から聞いた話ですが,事故が起きてからヨウ素剤は

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