FUKUSHIMAいのちの最前線
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第3章放射能との闘いFUKUSHIMA いのちの最前線229画の中に書き込まれているのは,そこに避難してきた方々の名前等を記して,そこで何々町から来ていれば,そのときの空間線量率がどうだとか,あるいはその避難民のサンプルとなった人で,どのくらいの汚染が見られたかというような情報を記録しておくと考えていた話です。 ただ,昔,茨城で実際に30人ぐらいの住民ボランティアを使ってやってみると,行列ができてしまってうまくいかないということが確かにありました。ですから今回のように一挙に1,000人規模というかたちで動いてくると,おそらく受入態勢がパンクしてしまってうまくいかなかったのかなとも思います。ただ,うまくいかなかったということと,まずはそういう準備を始めたかどうかということは,また別の話だと思います。こういう災害が起きたときに何をやらなければいけないかということをリストアップしていくことにより,今回実効上何が問題となったかを明らかにしていけると思います。前川:登録は本来いろいろな意味でやらなければいけないことで,特に避難所ではやるべきだったことだと思います。富永隆子:一度3月13日に避難所に行ったのですが,市町村で避難をしてきている方の場合,そこの役場の人がいれば名簿を持っていました。そしてここの避難所にはどこから来た誰々がここにいますということは記されていましたが,すべてがそれでうまくいっているかというと,ちょっと把握できないということがありました。 また登録をするにしても,津波の被害で避難地域自体の役場が機能不全になっていて物がありません。登録するための紙もない,筆記用具もないということで,とりあえず避難してきたということがあります。それは町役場の人たちも被災者であり,避難してきたことと同じなので,避難所でそういった登録制度を立ち上げられたかどうかというのは,これはもう物理的に不可能であったと思っています。前川:どうも私たちは理想論をいっているだけで,現実論ではないですね。安定ヨウ素剤前川:それから次に重要なのは,われわれ医療者の最大の関心である安定ヨウ素剤の件です。これは午前中の鈴木会長の基調講演で,原子力安全委員会が2度にわたって福島県にある政府の原子力災害対策本部に指示を発しています。長谷川先生のところには,そういう通達はあったのでしょうか?長谷川:私の耳には届いておりません。薬剤部からヨウ素剤が配られまして,職場の判断で飲むか飲まないか決めなさいと,そのように伝えられました。前川:これを国際機関などで話をするときに,今回の福島第一原発の事故で,日本では安定ヨウ素剤が何人に配られて,何人が服用されましたか,副作用はどうでしたかという質問が必ずあると思います。100%あると思いますが,そのときに答えられないということです。 チェルノブイリ事故のときには,ポーランドでは約1,000万人が飲んで,何人の子どもで甲状腺機能低下症が起こったということがわかっています。しかし今回はGDP世界第三位を誇るわが国でそれすらわからない。どうするのでしょうか?細井:私は発災時の13日から1週間ぐらい,自治会館4階にいました。その下の3階が県の対策本部でして,密に連絡をとっていたのですが,私のいたところにはそういう情報は来ていませんでした。ですからわれわれもそういう指示は出していません。いわき市でも住民には配ったけれども指示が出るまで飲まないでくださいといわれたようですし,南相馬市では配布されていなくて,住民が病院に来てヨウ素剤の配布を要求しているのを見かけて,大変な状態でした。ただし,指示はなかったと思います。前川:内服されているところもあって,実際には三春町では内服されたようです。新聞報道ではお子さんにパウダーを溶いてシロップにして飲ませるということを,実際にやったところもあったようです。ですけれど実態はどうかわからないので,そのあたりどう考えたらいいのでしょうか? 鈴木先生いかがですか?鈴木:もともとがSPEEDIによる線量予測に基づいて考慮するように決まっていましたから,その情報がないときにどういう代替手段を使うかといった議論があったと思います。私自身,そのときにはいませんでしたが,具体的にどういうコメントを出していたかというと,スクリーニングレベルについてのコメントをERCへ原子力委員会から出して,そこの中で先ほどの10,000Bq/㎠のようなレベルを超している場合は,ヨウ素剤を投与するというようなコメントを書いたものが送られます。ある時点で全員にヨウ素剤を投与すべしという助言を出しているものとは違いますので,そのへんで助言の徹底性がどのくらいあったのか,政府対策本部ではどの程度認識されたかが問題になるのだろうと思います。原子力安全委員会の助言組織ではそういう助言を出しても,それが実際に実行されたかどうかのフィードバックがかかっていない状態であったのではないかという気もします。ですから2回,多分もう1回同じようなコメントがあって,その3回送っているよ

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