FUKUSHIMAいのちの最前線
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176福島県立医科大学HP〈2011年7月11日〉掲載福島県立医科大学器官制御外科学講座 乳腺・内分泌・甲状腺外科部長 教授 鈴木 眞一原発事故後の福島県内における甲状腺スクリーニングについてはじめに 東日本大震災に続発して起こった東京電力福島第一原発の事故は、福島県のみならず日本および北半球の大気に広範な放射線汚染をもたらしました。原発の事故のレベルとしてはチェルノブイリと同等のレベル7とされています。その際に最も話題となっているのは、チェルノブイリでの事故で唯一健康被害として明らかになった放射性ヨウ素の内部被ばくによる小児甲状腺がんです。原発事故時に0歳から15歳であった子供たちに5年後から急に甲状腺がんの発症を見たものです。このような状況から、今回の福島第一原発事故による大気中の放射線汚染が生じた福島県内でも、「甲状腺」が話題となっています。しかし、チェルノブイリと福島では被ばくの線量も様相も全く異なっています。 そこで、無用な心配と混乱を避ける為に、甲状腺を専門とする講座を主宰するものとして県民の皆様の最も身近にいるものとして、甲状腺に関する見解をお知らせ致します。一般の甲状腺がんについて 甲状腺がんは頻度が高く、その予後(がんの成績です。生存、再発、死亡など)は良好です。甲状腺がんの約90%を占める乳頭がんの10年生存率は95−6%と極めて予後良好で、固形癌のなかで最も予後が良いとされています。また甲状腺がんの進行は極めて緩徐です。また最近では、超音波検査機器の向上から10㎜以下の微小癌が多数発見されるようになってきましたが、極めて予後が良いものが多いために、甲状腺被膜外浸潤、リンパ節転移、遠隔転移、遺伝性甲状腺がんなどが否定される場合には直ちに手術をせず経過観察をおこなうこともあります。成人の乳頭がんの約半数にBRAFの遺伝子変異が認められます。小児甲状腺がんについて 頻度は14歳以下0.3%、19歳以下1%と全甲状腺がんに占める割合は極めて少ない割合です。本邦、欧米とも年間発生率は人口10万人あたり約0.2名とされています。予後は成人例とはやや異なります。すなわち、遠隔転移とくに肺転移例が多く認められます。甲状腺全摘が多く施行され、術後に131Ⅰ内照射治療も必要になることがあります。しかし、成人例に比べ再発は多いものの生命予後に関しては成人に比較して良好とされています。従って、命にはかかわらないものの術後長期のフォローが必要となります。成人とは異なり小児例ではRET/PTC遺伝子の再配列が多く認められ、チェルノブイリでの小児甲状腺がんでもこの遺伝子異常が多く認められ、放射線誘発の甲状腺がんにも認められる異常とされています。 チェルノブイリでも過去25年間で6000人以上の放射線関連甲状腺癌(事故当時乳幼児から学童)が手術されましたが、死亡例は約15名(0.25%)と非常に少ないものでした。しかも、死亡例の多くは当初稀である小児甲状腺がんが大量に発見され、手術や術後治療に慣れていない施設での両側反回神経麻痺などの術後合併症に起因し、現在では進行がんも問題となっています。 広島・長崎の原爆による被ばくでは甲状腺がんは、1Svの外部被ばく線量で甲状腺がんのリスクが1.5倍に増加しております。被ばく量が高いほどまた被ばく時の年齢が低いほど癌の発生が増えております。100mSv以上でリスクの増加が認められています。チェルノブイリと福島の違い チェルノブイリでは、放射性ヨウ素により汚染されたミルクを飲んだ子どもたちに甲状腺内部被ばくをもたらしました。一方、福島の子どもたちは食の安全が確保されていますので状況は全く異なりま

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