FUKUSHIMAいのちの最前線
167/608

第2章福島医大関係者行動記録〈手記とメッセージ〉FUKUSHIMA いのちの最前線161 春を特徴づけるのは湿潤です。小雨に煙けぶる田畑や町並み、そして雨を含んだ大地が穏やかにみえます。庭には、福寿草が顔を出し、木ボ瓜ケも赤い蕾をつけ出しました。…春です。春は人ヒ間トを優しさへと誘いざないます。 赤しゃっこう光と表現したくなる赤々とした朝陽が、山々を照らしています。平野部では、陽光が川に橋を架けるように帯状に輝いています。ムンクの絵画に度々出てくる月光を赤くしたようです。あかあかと朝焼けにけりひんがしの山やま竝なみの空朝焼けにけり(斎藤茂吉) 冬の間、茶色一色で眠っているように見えた田畑に、所々、若々しい緑が出現してきました。関東平野の山やま間あい、窪地の南斜面に、家屋が立っています。家の前は、なだらかな棚田です。各々の山間には一戸ずつ家があります。夕陽を浴びて佇んでいるその姿は、我々の年代の人間が思い浮かべる“故郷”です。 “時代”が求めるままに走り続けた1年でした。やるべきこと、求められる役割を、「拙速」に果たしてきました。評価は、数十年先の“時”です。 政府主催の東日本大震災一周年追悼式に出席してきました。天皇陛下が、被災地の、あるいは避難されている人々のみならず、被災や避難されている人々の為に働いている方々への労ねぎらいも述べられていました。先の園遊会で掛けて戴いた言葉が脳裡に浮かびました。(vol.146 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=179) 陛下のお言葉は、被災者や避難者のみならず、救援、復旧・復興にあたっている人々にも言及されており、その御配慮に感謝の念を改めて深くしました。 この追悼式へ、文字通り命を賭けて出席された天皇陛下の思いの丈と比べ、遅れて入って来たり、途中退席したりする人々がいるのを目にすると、我が国の品格や将来に不安を抱いてしまいます。 原発事故で避難を余儀なくされている人々を含め、被災者の方々はこの1年間、充分頑張ってきたし、今もそうです。これらの方々を支援し続けることは勿論ですが、同時に、一ひと時ときの静寂や平穏さも用意してあげるのも大切なのではないでしょうか。自らの足で一歩ずつ歩き出すとき、一いっ時ときの沈黙、沈思、そして静寂は欠かせないからです。 これから毎年、国民一人一人が、この大震災で亡くなった人々、そして苛酷な環境に追いやられた人々に思いを馳せ、顧みることは、残された人々や次代を担う若者を勁つよく、優しくしてくれるのではないでしょうか。 3月20日(1935)、日本画の巨匠、速はや水み御ぎょしゅう舟が急逝した日です。40歳という早過ぎる死です。「炎舞」の鬼気迫る迫力や闇の妖しさ、「名めい樹じゅ散ちりつばき椿」の究極の様式美は、今尚、我々を惹き付けて止みません。 今週の花材は、春の代表であるサンシュユと桜が主役です。もう1年が経ってしまったのかという思いが、胸を過よぎります。今週の花vol.166 思い遣り2012年3月23日■サンシュユ ミズキ科/落葉小高木/原産:朝鮮・中国/《名前の由来》中国名の「山茱萸」の音読みから/葉が芽吹く前に小さな黄色い花を枝いっぱいに付ける。茱萸(シュユ)はグミのことを指し、グミに似た果実をつけ、秋に真っ赤に熟す。薬用植物として江戸時代に渡来。春を告げる花木として親しまれる。■アンスリュウム〔エンジェル〕サトイモ科/常緑多年草/原産:中南米/ツヤツヤの苞と葉が特徴の南国の花。花びらのように見える部分は苞で、中心の棒状の部分が花。「エンジェル」は真っ白の品種。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です