FUKUSHIMAいのちの最前線
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第2章福島医大関係者行動記録〈手記とメッセージ〉FUKUSHIMA いのちの最前線159 空を見上げると、蒼あおの色彩が薄くなってきています。大気は、明らかに春の到来を告げています。5日は啓蟄です。例をみなかった程の寒い冬も終わりです。 室内は、アネモネの赤と小コ手デ毬マリの白が気分を高揚させてくれます。 先日(3月1日)、この冬の寒さを象徴するように、深い朝霧が立ち込めました。今年初めての朝霧です。100m先も見えない程です。通りを行く人や車が、白い霧の中、音もなく過ぎて行きます。 この時季になると、私の世代では、授業で習った島崎藤村の詩が浮かびます。小諸なる古城のほとり雲白く遊子(ゆうし)悲しむ緑なす繁縷(はこべ)は萌えず若草も藉くによしなし・・・・・ 大学は、今が一番忙しくなる時期です。今年は、教職員達は東日本大震災に伴う原発事故の対応にも忙殺されています。何人かの職員や急遽働いて戴いている県職員のOBの方々、そのうち何人かは疲弊して辞めてしまいました。私自身は復興を見届けられなくても、世代や職種を越えて黙々と復興に向けて働いている姿をみることができるうちは安心しているのですが…。 名古屋で、深夜と暁、高層のホテルから外をみると、人工と自然がつくり出す典型美をみる思いがしました。夜、街の灯が冬の星空を再現したかのように地上に煌きらめいていました。星空ほどには灯と灯との間隔がなく、雑然としているので、“宝石箱をひっくり返した”という表現が似合っています。早朝、浅い眠りで目が覚めてしまいました。漆黒の闇の中に三日月が輝いていました。眼下には線路が黒い帯となって走っていて、そこを車両からのガタガタという連続音が地上から上ってきました。線路の構造のせいか、ガタンガタンという音はありませんでした。 星空といえば、ある夜、車中から上弦の月を頂点に2つの輝いている星が目に飛び込んできました。漆黒の天空を背景に、月と一体となって“く”の字を描いていました。星座は、今まで関心がありませんでした。私にとっては、何度みても、本で紹介されているようには見えないからです。今回ばかりはあまりに整然とした美しさに、調べてみました。結果は、木星と金星でした。数分後には金星は隠れてしまいました。月と木星は直線状に変化して、市街地の灯りで漆黒の闇が薄れるとともに、その輝きを失っていきました。束の間、天空をキャンバスとした抽象画でした。 時代と共に“消えた音”として、線路の継ぎ目からのガタンガタンの他にもう一つあります。それは、列車の連結音です。連結を終りし貨車はつぎつぎに伝はりてゆく連結の音(佐藤佐太郎) この歌を読む度に、音の響きが、光景とともに鮮明に脳裡に浮かびます。 今週の花材は、2つの部屋とも、白と緑の組み合わせを主体としています。春の持つ爽やかな明るさを表現しています。 今週の花vol.164 星 空2012年3月9日■カラー〔ウェディングマーチ〕サトイモ科/球根植物/原産:南アフリカ/江戸時代にオランダから渡来。別名は「オランダカイウ」(阿蘭陀海芋)で“オランダからきた芋”の意。花びらに見えるメガホン状の部分は苞で、その中の棒状の部分が花。今回は1m超の立派なものを使用。■カーネーション〔ポリミア〕ナデシコ科/多年草/原産:地中海沿岸/江戸時代にオランダから渡来。品種がとても豊富で、世界的にも生産量の多い主要花。母の日の花として古くから親しまれる。「ポリミア」は淡いクリーム色の品種。■ヒペリカム〔セルバロマンス〕オトギリソウ科/半常緑低木/花期は初夏で黄色い花が咲く。主に花後の実を楽しむものとして流通。「セルバロマンス」は爽やかなグリーンの実色。

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