FUKUSHIMAいのちの最前線
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158 冬です。西の山麓から灰色の厚い雲が東に向かって突き出し、西の空に残っている青空を駆逐する勢いです。 電車が福島盆地に入ると、北向きの屋根や日陰にうっすらと雪が残っていました。初雪が降ったようです。木陰や落葉の上にうっすらと刷は毛けで掃いたように雪が残っていました。 一方、関東平野は、大気が最も美しい時季です。夜明け前の朝焼けは、赤紫色が暗色系から明色系に刻々と変わっていきます。この変化が終わると夜明けです。 この一年、忘れられない年になってしまいました。福島県は大震災に加えて、人口密集地帯での原発事故の同時多発という、誰も経験したことのない惨禍に見舞われました。その対応に、平時の執務を変えずに成し得る限りの努力を続け、体調を崩してしまいました。誕生日前からの体調不良がなかなか回復せず、遂にドクターストップです。“過剰適応症候群”と諭されてしまいました。ゆく年の惜しくもあるかな ますかがみみるかげさへに暮れぬと思へば(紀貫之「和漢朗詠集」) 事故発生以来、「われわれだけが不幸なのではない。この広い地球には、われわれより悲惨な事態が起こっている」(シェークスピア「お気に召すまま」)と自らに言い聞かせて、自分なりにベストを尽くしてきました。少しホッとしたら途端にダウンです。 ギリギリの状況で事故収束にあたっている方々からみたら、恥ずかしくて、顔向けができません。この年末年始も24時間体制で臨むのでしょう。健康に留意してと祈らずにはいられません。何故なら、我が国の、そして地球の将来が彼、彼女等の働きに掛かっているのですから。 畏い友ゆうの誘いで広島へ行ってきました。体調は悪かったのですが、心身の切り替えの良い機会と考えました。空港から市内へ入る山陽道の道傍にある紅い山サザンカ茶花が、今を盛りと咲いていました。只、周囲の山肌に松枯れが目立ちました。 早朝と深夜、鉄路のレールの継ぎ目から出る音が部屋まで届き、この“ガタンガタン…”が昔の記憶を呼び起こしてくれました。心のオルゴールでした。 何度も訪れた二つの美術館を再訪しました。訪問する度に新たな発見があります。 ひろしま美術館では、アンリ・ルソーの「要塞の眺め」が目に入りました。作者の最晩年の作だそうです。画面の隅に小さく描かれた人物の背中が作者の後ろ姿のようで、静寂、沈黙という音が画面から聞こえてくるようです。一転、ジョルジュ・ルオーの描く人物はいつみても心を和ませてくれます。 広島県立美術館では、特別展として「近代日本の木彫展」が開かれており、ここで平ひら櫛くし田でんちゅう中の「落葉」(井原市立田中美術館蔵)に再会しました。何とも言えない侘びしさ、無心などを感じさせられ、心を落ち着かせてくれます。 今週の花材は、執務室、秘書室ともに“凜”がメッセージでしょうか。執務室の姿は重しげ森もり三み玲れいの庭石をみるようです。 今週の花vol.154 星 霜2011年12月22日■ニシキギ ニシキギ科/落葉低木/原産:日本・中国・朝鮮/カエデ、スズランノキ(鈴蘭の木)と並ぶ世界三大紅葉樹。枝にコルク質の翼よくを4方向につけるのが特徴。春に小さな花が咲き、赤い実をつける。■パフィオぺディラム(シンディグリーン)ラン科/原産:東南アジア・中国・インド/《名前の由来》ギリシャ語の“パフィア”(ヴィーナス)と“ぺディロン”(サンダル、上靴)の2語からで、ヴィーナスのスリッパという意味。花びらの一部が袋状になることに由来/袋状になる唇しんべん弁が印象的で目を引くユニークな花姿。品種により形が様々で、みな個性的な花。理事長室からの花だより

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